《貴社の記者が汽車で帰社した》
同音異句の多い日本語での、言葉遊び。
この中で、あまり最近使われないのが、《汽車》。
東京などの都会では、列車の事を、電車と呼ぶ。
「何で来た?」の質問に、
『電車で』と応える。
ところが、いまだに、《汽車》ばかり使う人たちもいる。
私の郷里、大分だ。
大分では、線路の上を走るモノは汽車と呼ぶ。
列車でもない。
最近は、電化はもちろんされているのだが、
それでも、轟音をけたてて走り去る巨体を、
《汽車》と親しみを込めて呼んでいる。
彼らが、受験や、転勤で東京にやってくると、
まず、電車に乗ることになる。
その時、当たり前のように、発するのだ。
「汽車がいっぱい走っちょるんじゃねぇ」
都会在住の方は、ポカンとする。
『汽車は走ってないんだけど・・・』
人によっては、一年近くも、「汽車」発言がなくならない。
頭の中で、電車だと分かっていても、口は、
「汽車」と発してしまう。
私の45年前の場合などは、
上京後3年経っても、まだ時折、「汽車」が出た。
あるとき・・
電車の連絡がうまくいかなかった時に、
電車が悪いという意味で、こうつぶやいた。
「汽車がいけんナ」
すると、友人らはこう受け取った。
「記者会見ナ」
え~どこにどこに?という事になり、
皆でキョロキョロしたものだった。
大分でもさすがに、「汽車」は遠くになり始めている。
「電車」を使う若者が増えてきた。
それでも、おばあちゃんに呼び止められることがある。
「あんた様ぁ、汽車ン話し、しよりますやろぉ~?」
『はい、しちょります、しちょります』
「ええなあぇ、あっちこち行けチかい」
『行っちょりませんが、いいです』
そして、大分では汽車の扱いはこうなっている。
「東京まで、どの汽車で行くんか?」
『途中から、新幹線じゃ』
「ああ、あん汽車は速えぇなあ~」
新幹線ですら、汽車扱いなのだ。
恐らくリニアが走っても、「汽車」と呼ばれてしまうだろう。