「おい、滝田君、なんでそのまま乗せるんだヨ」
時は、5年ほど遡った春。
所は、谷川岳の麓。
ハイエースでペンクルしている。
七輪の上に、丸のまま野菜が乗っけられている。
「
ピーマン丸ごとじゃないか」
「さすがにトマトは切ってあるが、
ナスも丸ごとだし!」
「それより何より、
玉ネギ丸ごとって、なに!」
二人、七輪で暖を取りながらのキャンプである。
ラム肉を頬ばり、ワインをぐい呑みし、
栄養価をかんがみ、
野菜部門を滝田君にお願いしていたら、
なんと!
サラダ用に買い求めた野菜を、ただポンと、
七輪の上の乗っけただけ。
コレを、驚くべき手抜きと言わずして何と云おう!
あまりと云えば、あまり!
ソレ、料理と言うか?
いくらキャンプでも、あんまりまりまりだろう!
私のケンマクにも悪びれることなく、ワインをグビグビやる滝田くん。
お互いグビグビが続いて・・・小一時間。
炭火の上に、
忘れ物がポツンとある。
黒いボールこと、玉ネギだ。
真っ黒に変色した物体にナイフを刺してみた。
ブスッ
真っ二つに割る。
驚くべきことに、
一時間焼いていたにも関わらず、中身は真っ白だ。
割ったとたん、水蒸気がジュワッっと噴き出した。
甘い香りがあたりにただよう。
旨味の香りである。
玉ねぎをタテに割ったので、真ん中にユリ根のような小粒が見える。
水分が噴き出し、トロンとしている。
箸でツマミ、口に放り込む。
ガ~~~~~~ン!
えも言われぬ衝撃が脳天を揺さぶる。
「コレ、何もしてないよネ」
「調理してないよネ」
「ただ丸まま焼いただけだよネ」
それ以来、《玉ねぎの丸焼き》は、我らのキャンプの定番になった。
真ん中小粒、奪い合いの定番になった。
おおもとは、滝田君の、
《
まったくやる気のない忘れ物》なんだけど・・