なんか知らんけども、男は
トイレットペーパーにこだわっている。
ロールペーパーが気になっている。
グルグル巻きの、あの紙の具合に、
生活の多くの部分が関わっていると感じている。
なんでも良いワケではない。
「紙であればいいじゃん」などという意見が受け入れられない。
その昔(50年前)、トイレの紙入れには、
バリバリした堅い紙があった。
ロールが、まだ無かった時代だ。
専用の紙があるならまだしも、
たいがいは、新聞紙が、四角にハサミで刻まれて置かれてあった。
スーパーのチラシが、同じように刻まれてあった。
そのすべては、こう呼ばれていた。
《ちりがみ》
当時、<トイレ>と、まだ呼ばれない時代の<便所>から、
大きな声が、聞こえたものだった。
「お~い、ちりがみが無~い、持ってきてぇ~!」
便所に入って、紙が無いと気づいたヤツが叫んでいる。
「だれかぁ~ちりがみ無いゾ~」
悲壮な雄たけびは、現代家屋ならまだしも、
障子と襖と廊下がいり乱れる古い家屋では、
声が吸い込まれ、届くはずもない。
「おお~い」とかすれ声になりながら、
軽いパニックに陥っている。
時は経って現代。
その頃の恨みを抱いた男は、トイレットペーパーにこだわる。
やたらこだわる。
この男は、ビールは、発泡酒でも許せるくせに、
トイレットペーパーは、プレミア品でないと許せない。
ちりがみを連想させる品が許せない。
許せないあまり、移動時には、
マイトイレットペーパーを持ち歩いている。
そして・・時折、叫んでいる。
「おお~い、俺のトイレットペーパーが無~い!」