大根おろしは大変!
料理を作る作業の中で、何が一番大変だろうか?
答えは、大根おろしである。
子供の頃から、大根おろしをおろしてきた。
小さい金おろし器を、左手に持ち、
右手で大ぶりな大根をつかみ、すりおろす。
この行為は、非常に力がいる。
包丁をひくとか、
タオルを絞るとか、
リンゴの皮をむくとか、
すり鉢で棒をこねるとか、
様々な動きの中で、おそらく、
最も
不可思議な動きを求められるのが、大根のおろしだ。
斜めに傾いたさして大きくない金属の物体の上を、
その方向にそぐわない持ち方をした大根を動かす。
ベクトル的には、間違った動きを強要される。
言ってみれば、すれ違い平行棒である。
いっさい交わらない二本の棒の方向に、
力を加えなければならない。
しかも・・行って帰ってくる往復運動だけでなく、
まあるく円を抱くような動きもしなければならない。
さらには、時折、尖ってしまった大根を、
瞬時に右手で持ちかえるという手品の動きも要求される。
そして、何より!
随分頑張ったハズなのに、
出来上がる
大根おろしの量のなんと少ないことヨ!
毎朝毎朝、魚の干物の横に、
何気なく積まれてある白い大根おろしは、
お母さんの苦労の末の産物なのだ。
色んな料理の中で、最も技術と体力が必要とされているのだ。
だのに・・・
その大変さを、誰も気づいてくれない。
よもや、称賛されることもない。
悲しいことに、食べられることもなく、
打ち捨てられた日には、
無念の涙が、流されるかもしれない。
サバの横、サンマのかたわら、
イワシのまくらに積もれた大根おろしに、
ぜひ、アナタのささやかな愛情を!