
津軽海峡の、とある港にいた。
カモメが、近くに寄ってきた。
なにか食べ物が欲しいらしい。
持っていたプチトマトをほうってやった。
チラ
食べようとしない。
トマトは嫌いなのかな?
その時だった。
カモメは、不可思議な動きをしだしたのだ。
私に正対し、頭を自分の股の間にゆっくり差し込み、
ブルブルと震える。
やには、頭をこちらにもたげながら、
嘴を、せいいっぱい開き、狂気のように、
泣き叫び始めた。
鳴くではない。
泣くだ。
クエックエックエックエッ!
恐らくこう訴えている。
「なんで、食い物くれねえんだ!
コラッ、くれヨ!くれヨ!くれっくれっくれっ!」
股の間をのぞいていたのは、大きな声を出すための、
勢いつけの、準備行動だったと見える。
天橋立に、《股のぞき》という観光名所がある。
後ろ向きに立ち、上半身を下げ、股の間から、
景色を眺めようというパフォーマンスをやらされる。
あの動きに、このカモメのしぐさは似ている。
「な~んで、アンタは食い物くれねえんだヨ!」
自分の思いのたけをぶちまける為に、
いったん、頭を股の間までもっていき、
その勢いで顔をあげ、泣き声を振り絞るのである。
「くれヨ、くれヨ、くれヨ!」
凄まじいばかりの慟哭である。
カモメって、こんな鳴き方しただろうか?
ふと、この溜め方に似ている表現を想い出した。
ぼんちおさむのオサムちゃんである。
オサムちゃんのパフォーマンス。
自分の名前を言う時に、なかなか喋らず、
たっぷり引っ張るだけ引っ張る。
「お、お、おぉぉぉぉぉぉぉ~~~お、お、
おさむちゃん・・デ~~~~~~ス!」
名前を言うだけなのに、数秒引っ張る。
長い時は、10秒ほども引っ張る。
もの凄い時は、30秒ほど、引っ張っているのを、
目の前で見たことがある。
とてつもない強引な芸風である。
あの溜め方に、カモメの泣く前の股のぞきが良く似ていた。
「なんかくれ!」と要求するカモメのパフォーマンスに、
吹き替えセリフを当ててみた。
「お・お・お・おぉぉぉぉぉぉさむちゃんデ~~~~ス!」