青森県のとある観光地での会話である。
地元の定期バスの運転手さんに歩み寄り、窓越しに、
オジサンが話しかけている。
「わたしネ、山口から来たんですヨ」
『ハア~そうですかい』
「ここ青森でしょう、やっぱり遠いネ」
『どこからって?』
「山口」
『え~と、大阪より向こうかいナ』
「あのですネ、シモノセキ知ってるでしょ」
『ハア~ふむ・・・ふむ?』
「そんで、私これから飛行機で帰るんですワ」
『大阪空港に?』
「いやぁ~、まったく違うんじゃけんど」
どうやら、山口のオジサンは、
本州の端から端に来た喜びを誰かに伝えたいらしい。
一方、青森のバス運転手さんは、
日本列島に関して、大阪までは、かろうじて認識があるが、
その先はよく分かっていないものとみえる。
青森の地に立って、日本列島を意識してみた。
私は、南を向いている。
後頭部のあたりに、大きな存在、北海道がある。
今はそれを忘れて、本州以南を思い浮かべてみよう。
まずは、秋田岩手に始まる東北の長~い大地が、
関東まで真っ直ぐ南に向かっている。
南をあえて、下と呼んでみよう。
下の方の大地が折れ曲がったあたりに、
首都圏があり、なんかしらん賑わっている。
そこから、右のほうに大地はさらに太くなって、
遥か先の西のハテまで続いている。
途中、とび出したり、入り組んだりしている地形もある。
先っちょの方に、たしか島が二つくっ付いている。
四国と九州だ。
大きさはまったく分からない。
いずれにしても、遠い遠いこの世のハテだ。
台風は、その方角からやってきて、
滅多なことでは、青森までやってこない。
そんで、下の方は、やたら暑い。
大分県やら愛媛県やら、聞いたことはあるが、
どこにあるんか分からん。
沖縄にいたっては、地球のまあるい向こうの方で、
よく見えない。
青森のバスの運転手さんの感覚は、正常である。
大阪まで分かっているだけで、優秀ともいえる。
山口のオジサンも、ぼんやりしている北のハテを、
確かめに来たのかもしれない。