井戸をのぞきこんだ。
よくある事だが、よくある事でもない。
ここんとこ最近、井戸にお目にかかれない。
かかれても、フタをしてあるか、
水が溜まっていないか、
もの凄く深い井戸であるか・・
その昔、我らの住処の周りには、井戸があった。
井戸には、『くるる』がぶら下がっており、
その滑車で、桶を吊り下げ、水を汲んだものだった。
スイカを冷やす為に、桶に乗っけて降ろしたものだった。
くるるを降ろし、巻き上げると、くるるが、
『クルルクルル』と巻き上げ音を発し、
「おお、くるるはクルルと音が鳴るから、くるるなんだ!」
ハッシと手をうち、感動したものだった。
昔人の言語感覚に、いたく心うたれた。
「おっ、井戸があるじゃないか」
旅先で見つけた井戸を、思わず覗き込んだ。
すると・・・
浅くもなく、深くもなく、
ほどよい距離に水が溜まっているではないか。
水面に、私が映っている。
背景に、真っ青な大空が映っている。
井戸の底・・
お菊さんやら、貞子が登場するような、
暗い憎まれ場所に、
さわやかな青空が、真ん丸で切り取られている。
そこに、ひょっこり顔を出してみた。
ついでに声も出してみた。
「おお~い、スイカを落ろしてもいいかい?」