《カボス》である。
スダチじゃないんですか?
違う。
ユズじゃないんですか?
違う。
ポンカンじゃな・・
違う!
カボスだ!
カボスの産地、大分県で育った。
なんにでもカボスをかける大分県で、子供期を過ごした。
スダチを知らなかった。
ユズも知らなかった。
かろうじて、
レモンと云う名前だけは知っていた。
テレビの、「♪~レモンレモン~♪」の歌で、ソレを知った。
知ったが、レモンを見た事はなかった。
初めて観たときには、スライスされていた。
それも、半月だった。
ゆえに、「レモンは、半月輪切りだ」という生涯認識となった。
大分県では、なんにでもカボスをかける。
ここに、半分に切ったカボスがある。
握ってしぼり焼き魚にかける、が普通。
勿論、かける、ギュッ。
隣に、刺し身がある。
やはりギュッっとかける。
その隣にサラダがある。
ギュッとしぼる。
おしんこ・・・ギュッ。
枝豆・・ギュッ。
冷やっこ・・ギュッ。
焼酎・・ギュウゥゥゥゥ
味噌汁・・ギュッ。
まさか・・ご飯・・・ギュッ!
かける人はかける。
さほど、カボス信仰は強い。
ギュッっとしぼった残りは、風呂に放り込む。
カボス風呂。
徹底している。
ところで、
大分弁で、人のものを盗む行為を、
《ぼかす》と云う。
「こら、財布
ぼかすなヨ」などと云う。
「ウチの会社の機密
ぼかすのは犯罪だぞ」などとも使う。
実際、大分では、今も使われている。
昔、大分のある村で、カボスが盗まれる事件があった。
そのカボスを作っている農家の方が、テレビで、
大騒ぎしていた。
騒ぐワリには、言葉に説得力がなかった。
はい、声に出して彼の苦悩を喋ってみましょう!
「ぼかされたぁ~カボスをヨ、
カボスぼかすカボスぼかすそげな奴、許されんじゃろ。
カボスぼかされたんじゃあ~ぼかすなよ、カボスぅ~」