山小屋で、ばったり出会ったのは、
尾瀬の歩荷(ぼっか)だ。
歩荷とは・・・古い辞書には、
「山を越えて物を運搬する人夫」とある。
彼は、尾瀬の群馬側からの歩荷を初めて4年目の新人だ。
つまり若い。
常日頃、80キロ以上の荷物を背負って、尾瀬ケ原を闊歩している。
それがナリワイ。
我らのように、山を遊山目的で登っているのと、
根本が違う。
その遊山の人を支えているのが、彼らボッカだ。
「あ~~旨い!」
山小屋で、ビールをゴクリを飲み干し、
信じられないほど旨いと、
雄たけびを発する私を支えているのが、
ボッカの彼だ。
偶然出会ったボッカの彼に質問の嵐を浴びせる。
「腰のベルトはどうなってるの?」
『ボクら、腰ベルトはないです、すべて肩で背負ってます』
「肩で!?」
『はい、腰で担ぐと、グラグラするんで・・』
驚いた・・
超のつく重量を、腰にのせずに、肩で担ぐのか・・・
さらに質問。
「尾瀬で、担ぐモノで一番重いモノは何だろう?」
『水は重いです』
「水?」
『ピチョン、ピチョン揺れます』
なるほど、我らとて山登りの際、
水のペットボトルの残量によっては、
右に左に水が移動し、その揺れがうっとうしい。
岩稜地帯では、その揺れで、岩場からの滑落すら起こる。
『でも、もっと重いモノがありますネ』
「・・なに?」
『油です』
「あぶら・・?」
『山小屋用に運ぶ油が重いんです』
ちょっと待てヨ。
同じ一リットルなら、水より油の方が軽いのではないかい?
『油は重いです』
「わ・わからない・・説明して」
『うまく言えないんですが・・ネバルんです』
「ネバル?」
『なんかぁ、ネバリが重さを感じるんです』
ふむふむ・・荷物の中で、トプントプンと横揺れし、
油特有のネバリが発生するのかもしれない。
その繊細な動きを感じとれるのが、ボッカのたましいだ。
山小屋で出会った彼と、一枚の写真を撮ってもらったのだが、
体格的に、私の8割型の小さな身体と言ったらいいだろうか。
身長も体重も、決して大きくない方なのだが、
実は、驚くべき筋肉を隠し持っていた。
モモの付け根箇所。
正座をして、両手の指をモモの付け根に当てた場所。
その箇所に、
丸く盛り上がる筋肉が出来るのだと言う。
触らせてもらった。
びっくりした。
確かに丸い盛り上がりの筋肉!
相撲の力士は首の後ろに、盛り上がるチカラコブが出来るが、
ボッカは、足の付け根に丸いチカラコブができる!
『ネパールに行った時に・・』
「?」
『シェルパと一緒に荷物を担いだんですヨ』
「ふむ」
『頭のおでこにヒモをかけて担ぐんですが』
「おでこで?」
『理に適ってますネ』