そうだ、蝶が岳から常念岳に縦走してみよう。
これまで、穂高連峰や槍ヶ岳にばかり目が行き、
その前衛である常念岳に登ったことがなかった。
松本市から眺める常念岳のピラミッドの形は勇ましい。
参加したのは、滝田隊員、ヨウコ隊員の3名。
登山口の三股・・まずは、雨が降っている。
心配無用だ。
下界での雨は、山の上は降っていない事が多い。
1900mで、大量の残雪が現れた。
「ホイ、アイゼン装着!」
急斜面をザクザクと登ってゆく。
傾斜はどんどん急になる。
場所によっては、万が一足を滑らせると、
そのまま、遥か下まで落下する箇所も現れる。
悪いことに、我らが来ているレインウエアは滑る素材だ。
スキーウエアより、よく滑る。
転倒、即、ジェットコースターの気配が濃厚。
「丁寧に足を運ぶように、決して転倒するなヨ!」
途中の緩斜面で、転倒訓練をする。
止まる練習をする。
「万が一倒れたら、すぐに腹這いになるんだゾ」
『へい』
そうこうして小一時間。
斜面はさらにきつくなる。
「気を緩めるなあ~」
ことばが終わらないうちに・・
ズルッ
後ろの滝田君が、足を滑らせた。
マズイ・・
彼は、我ら隊員の中では、ズリ落ちが得意である。
以前、燕岳の崖でも、ズリ落ちをやった。
その時の経験が生きているのか、うまく体を反転させ、
斜面に正対させた。
「ヒザをつくと滑るゾ!」
『へい』
返事だけはいい滝田くん。
いや、返事以上に、身体の動きが良かった。
滑りを止め、ジンワリと身体を持ち上げてくる。
『はい、戻ってきましたヨ~ン』
危機は脱したのだが、
今度は、私の具合が悪くなった。
なんとなく吐き気がする。
昨日、呑み過ぎ?
いや、違う、高度順化がうまくいっていない。
いわゆる軽い高山病の始まりである。
標高2677mという、さして高山ではないが、
麓から一気に登ると、高度順化がうまくいかない。
私の体質が原因。
理想的には、2000mあたりで一泊した方がよい。
なんやかや、アイゼン効かして、頂上に立った。
そこは、霧に包まれていた。
しかし、そのあと、美しい光景に巡りあう。
頂上山小屋、《蝶が岳ヒュッテ》のご主人が語る。
「この光景は、ひと月に一回あるかないかですネ」
つづく
ウサギの足跡
蝶が岳山頂