「この光景はひと月に一回あるかないかですネ」
蝶が岳ヒュッテのご主人がのたまう、
偶然現れた自然現象。
早い夕食も終わり、そろそろ寝る準備を・・
っと、その時、外に出ていた登山客が、駆け込んできた。
「キリが晴れてきた!」
皆が、カメラ片手に、靴を履いてとびだす。
山小屋の中にいた全員が夕暮れの山頂にでてきた。
先ほどまで視界100mほどの霧だったのだが、
一気に霧が風に舞い始めた。
するとどうなる。
夕陽は、西にかぎりなく傾いている。
西には何がある。
残雪にまみれた穂高連峰と槍ヶ岳の峰々・・・
「うわあ~~~見えたあああ~!」
みなが、奇声をあげる。
夕焼の紅い空の中に、数々の峰が、浮かび上がる。
一瞬だ。
風と霧の気まぐれ次第で、すべてが現れたり、消えたりする。
まるで映像早回しの大パノラマ映画とでも言おうか。
マイナス3℃。
2677mの蝶が岳山頂で、
いつまでも終わらない天空ショーを眺め続けるのだった。