
ボクね、バンケンらしいんだネ。
「バンケン」と呼ばれたんヨ。
誰に?
なんかネ、背中にいっぱい荷物せおっている人達がネ、
朝早くに、
「さあ、
りょうかみさんにのぼるゾ!」
大きな声をあげて、ボクの横を通り過ぎるときに、
「バンケンしっかりしろ!」
そうそう、ボクは、
りょうかみさんと、みんなが云う山の、
ふもとにある「りょうかみさんそう」の、
おかみさんにお世話になっとるんですワ。
なんか、ボクの身体が大きくて怖そうってんで、
バンケンと呼びたかったらしいんですワ。
うん・・
ほんだけんど、この宿にやってきてだネ、
すぐにネ、
庭でネ、
バケモンに、であったんですワ。
びっくりしたんだヨォ。
からだが大きくて、ハイイロしてて、ツノが生えてて、
おまけに臭くて・・・
ボクは、あまりにもびっくりして、腰がぬけて、
もう、ダメで、ちじこまって・・
そしたら、みんなが、
「カモシカやカモシカや!」
もう、怖くて怖くて、ブルブル震えて、
おかみさんに、涙目を向けたら、
よしよしと、やさしく頭をなでてくれて、
おまけに、ごはんまでくれて、
ごはんに、ボクの好きなイワタケの煮しめまで入れてくれて、
クウィ~~ン
さっきも、
「こいつかぁ、だらしないバンケンは!」
荷物せおったおネエさんが、
頭をポンと叩いてくれるんだけど・・・
う~んとネ、そうは言われてもネ、
あんたらが、お宿にねてるあいだにネ、
真っ暗な庭には、いろんな怖いモンが出て来てるの知ってる?
眼が光るのとか、
鼻がなが~いのとか、
ヒラヒラとぶのとか、
歯をカチカチならすのとか、
ボクだけ、外にほっておかれてるんだよナ。
ほんで、ある夜、やっぱ怖い奴らが来たんだワ。
ボク、いちねんほっきしたんだヨ。
眼がうらがえりながらも必死で、
「ワンワン!」
ほえてみたらネ。
窓があいて、
「ウルサイ!」 だって クゥ

ボク と おかみさん と しらないオジサン