山に本を持って登る
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 昨日、「山に本を持っていった事がない」と述べた。
さっき、それは間違いだと気づいた。

その昔、けんじろう君が17才の時の話である。
九州から東京に出てきてまもなく、
秩父という所に、ある山を見つけた。
 《武甲山》 ぶこうさん 1304m
よし、登りに行こう!
この時、けんじろう君はすでに、
新田次郎著の「孤高の人」を読み終わっていた。
これがいけなかった。

キスリングというリュックに、
「重りを入れて担ごう」と考えた。
「加藤文太郎は、いつも石を入れて歩いていた」
という記述のくだりを思い出したのだ。
おもりおもり・・・
殆ど何もない下宿のアパート。
テーブルもない部屋に、なぜか本棚だけはあり、
自宅から持ってきたハードカバーの小説が並んでいた。
 《戦争と平和・上中下巻》
 《罪と罰・上下巻》 
 《谷間の百合》
 《カラマーゾフの兄弟・上下巻》
 《白痴》
 《スタニスラフスキーシステム》演劇本
 《チェーホフ全集・六卷》
 《サマセット・モーム全集 全18卷》

この他にも、本棚にある本をみんな詰めた。
よっこいしょ!
あれれ、立ちあがれない。
いったん窓枠にキスリングを乗せ、
座り込んで担ぎあげる。
ズシリ
肩にくいこむ。

さて、武甲山にやってきた。
登山口に辿りついたところで、すでに汗ビショ。
あまりにも重い。
鍛えると思いついたまでは良かったのだが、
登山に必要のないモノは、よけいに重く感じる。

中腹まで登ってきた辺りで、本を捨てたくなってきた。
カラマーゾフが嫌いになってきた。
何の罪をして、こんな罰を受けているのだろう?
谷間に百合なんか咲いてないゾ!
八つ当たりをしている。
いったい何キロを背負っているのだろう?
この時は知るよしもないのだが、
山から下りたところにあった銭湯で測ったら、
38キロあった。
そして、お馬鹿なことに、
本を詰め込む作業に力をそそぐあまり、
食べ物を買うのを忘れてしまった。
かろうじて水筒は、肩から掛けていた。

山頂に、ほうほうのていで辿りつき、
食料のない事に気づき、
食えない本を取り出しては、ため息をつき、
 「まさか、ここに捨てるんじゃないだろうナ」
ドストエフスキーのヒゲだらけの顔が浮かび、
 「本だから失敗したんだ、水なら捨てられたナ」
せこい考えに、唇のハシがゆがみ、
ハードカバーとは、外装が固いのではなく、
「ハードに鍛えられる本」だったのかと、
納得する17才のお馬鹿野郎であった。
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    常念小屋から槍ヶ岳
by ishimaru_ken | 2018-06-05 05:50 | 昔々おバカな話
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石丸謙二郎
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