
人に訊かれる。
「イシマルさんのオフタイムに出てくる、
《滝田くん》て、誰なんですか?」
うん、この説明をすると、非常に長くなる。
よって、本日は、近々開かれる予定の、
《滝田くんの生前葬》の為に私が書いた台本を、
こっそりお見せしよう。
本葬が近々を追い越さない事を願いながら・・
ご・ごほん・・・
~~~ ~~~ ~~~
本日、お日柄も良く晴れ渡った中でお集まりいただき、
誠にありがとうございます。
まずは、遺影をご覧ください。
故人のお名前は、「たきたしげる」
御年64才、昭和28年8月にこの世に、生まれおち、
東京は目黒あたりで、ナリワイを背負ってまいりました。
基本的に、遊ぶことに脳ミソの大部分のニューロンを駆使し、
風が吹けば、ウインドサーフィン。
静かなる日は、高山の山登り。
雪が降れば、スキー三昧。
東に、うまい蕎麦屋があれば、行って、もり蕎麦を喰らい。
西に、熱い温泉があると聞けば、訪ねてザブンとつかり、
北に、美味しい日本酒があると聞けば、呑んで眠り、
南に、美しいリーフがあると聞けば、
その浜辺でやはり呑んで眠り、
どんなに回りで皆が騒いでいても、
グウグウと眠れる身体をもち、
熱かろうが、寒かろうが、布団は一枚で過ごし、
誰んちだろうが、ハイエースんちだろうが、どこでも眠れ、
日本食だろうが、中華だろうが、イタリアンだろうが、
猫缶だろうが、草だろうが、
ありとあらゆる食い物に順応し、
出されたモノは、残らずすべて食べ、
蚊に刺されても気づかず、
死んだように眠る滝田くんでした。
そう、眠り方も秀でています。
山小屋で、一晩中クウクウとイビキをかきながら、
気持ちよさそうに眠る滝田くんが、
翌朝起きるやいなや開口一番、
「いや~イシマルのイビキがうるさくて眠れなかったァ~」
生涯つうじてイビキをかいていないと主張する滝田くん。
爆睡という言葉は彼の為にあったのかもしれません。
かように、夜眠るとき、いかにも死んだように眠る滝田くん。
あるとき、ほんとに死にかかりました。
延髄の血管が切れて、死ぬか生きるか、
その堺は、スレスレでした。
しかし、救急車に二回も命を救われた後は、
異常なまでに体力を回復され、
その健康な姿は、歌にまで歌われました。
トトロの替え歌で、
「♪~歩こう~歩こう、滝田だけ元気ぃ~♪」
さあ、ご友人の皆さま、棺桶前にお進みください。
ごらんのように、
椅子に腰かけ、ひたいに三角形の白い布をつけ、
全身白装束で、まじめにジッとしているのが、
滝田クンの生前の姿でございます。
生前葬では、ご本人との会話はできません。
けど、グラスにビールを注いでもかまいません。
特にビールには異常な執着をもっておりました。
もちろん、美味しい日本酒にも造詣が深いのですが、
特に特に、
ウインドの後に、浜辺でシコッとあけるビールに・・・
山小屋のテラスで、夕陽を眺めながら、
シコッとあけるビールに・・・
人生をかけているのが見え見えでした。
ついでに、供え物として、ボタモチをさし出していただければ、
甘いボタモチをほお張りながら、ビールを飲むという、
稀有な食事現場を目撃することができます。
故人は、生前、常にこう申しておりました。
「なぁんか~・・おもしろいネ」