
パヤオの周りに、私達はいた。
そこは、与論島から船で30分走った、大洋のど真ん中。
パヤオとは、海洋に浮いた物体を浮かべておくと、
ソレが、漁礁になる。
直径1m、長さ3mほどの直方体の円柱に、
水深2000mのロープが海底まで繋がっている。
たった、これだけのことで、不思議なことに、魚が寄ってくる。
まず、プランクトンが寄り、次に小魚が寄り、それを食べに、
大きな魚が寄ってくる。
私達は近寄り、釣り糸をたれた。
すると・・
すぐに反応がおきた。
竿が満月のように曲がる。
なんだコレは?
周りをみると、私だけではない。
皆が、満月になっている。
強引にテグスを巻いてゆく。
あがってきたのは、青々をした60センチはあろうかという、
《ツムブリ》
歓声を挙げている私の隣では、
大声をあげながら、
《カンパチ》があがった。
50センチ。
次々に、魚が船べりをたたく。
《カワハギ》
《シイラ》
《キメジマグロ》
《カツオ》
船の上の大興奮は、その場で表現しにくい。
陸上と違って、《よろこび踊る》という行為がしにくい。
《こ踊り》すら、問題がおおい。
ワ~イワ~イと踊りあばれると、海に転落する恐れがある。
そんな馬鹿な、と思われるでしょうが、
人は、喜ぶ場合、上へ上へと、身体をのばす傾向がある。
より高い所で喜びを表したくなる。
船では、舳先(
へさき)だ。
登れるものなら、マストに登るかもしれない。
コレ、危ない。
海は、基本的に荒れている。
船の上を舳先から最後部まで、歩くだけで、
酔っぱらったオジサンのような歩き方になる。
よもや、興奮したオジサンが、こ踊りしようものなら、
すぐさま海に引きずり込まれる。
だから、たとえ大きなぶっくりしたカツオを釣りあげても、
腰を下ろしたまま、小さくガッツポーズをするしかない。
では、声だけは大きく雄たけびを挙げるのかと云えば、
そうはいかない。
船一艘、借り切っているのならまだしも、
乗り合い船の場合、
釣れていない人への配慮を忘れてはならない。
ゆえに、こころある人は、
《キメジマグロ》をあげたと云うのに、
喉の奥で、
「ウグッ!」
いわゆる声にならない喜びを爆発させているのである。
不発弾を処理する時に、頑丈な金属の筒に、爆弾を放り込むと、
バムッという鈍い音がするそうだが、
まさにアレである。
幸い我々の船は貸し切りだったので、声だけは大きかった。
「きゃああああ~~~!」
「わああああ~~!」
できれば、船の上で魚を囲んで、盆踊りをしたかった。

コレ、一部です