
「ナブラだ!」
海上を釣り船が走っていると、誰かが叫ぶ。
鳥がたくさん海の上に集まり、渦のような飛び方をする。
《鳥やま》とも言う。
カツオやマグロなどの大型回遊魚に追われた、
イワシなどの小魚は、海面近くに浮き上がり、
右往左往する。
それを見つけた鳥たちが、上空から襲い掛かる。
その状態を、
《ナブラが出来た》と表現する。
ナブラがあるという事は、その海面下に、
カツオらが食事中だと、証明されたようなもんだ。
そこに、魚釣り船が大挙してやってくる。
「はい、どうそやってください」
船長の合図で、おのおのがルアーを投げる。
海面も海の中も、パニック状態である。
釣り人たちの目も血走っている。
そんな時だ。
私が投げたルアーが、
小魚の逃げる姿に似ていたらしい。
似ているならカツオが、とびつけば良かったのだが・・
なぜか、空からの標的にされた。
おっ、なんか食ったゾ!
竿が曲がり、リールが鳴り、テグスが出てゆく。
慌てて、リールを巻いてゆく。
すると・・
一匹の鳥が、空を舞いながら、私のルアーを銜えているではないか!
カツオではなく、
鳥が釣れたのである。
しかも、水中に引き込まれるのではなく、
空を逃げている。
私の竿から伸びたテグスの遥か先に、鳥が、
まるで凧のように右往左往している。
上にあがったり、右に左に~
周りにいるみんなが笑っている。
そりゃそうだ。
カツオを目の前にして、鳥を釣っているお馬鹿である。
一秒でも時間が惜しい時に、実にマヌケな事をしている。
やがて、近くに寄せてきて、
空中で、ムンズと鳥の首根っこを捕まえた。
クエ~クエ~
泣き叫んでいる。
「わかったわかった、今、ハリを外してやる」
クエ~クエ~クエ~
恐怖におののき、狂ったように暴れている。
周りのみんなが、カメラを私と鳥に向けている。
ま、私が彼らの立場だったら、やはりシャッターを押しただろう。
だって、こんな面白い被写体もないだろう。
「だから、足で、蹴るなって!」
クエ~クエ~クエ~
