
「ごちそうさま」
『毎日、ロケ弁当だと、脂モノで苦労するな』
「仕方ありません」
『あれっ君、食べた後、
箸を箸袋にしまうノ?』
「ええ」
『そうなんだ、しまうのか・・』
「しまいませんか?」
ドラマのロケ現場で、私と若手の役者が飯を食っている。
彼は、食後、箸を箸袋に収めようとしている。
『ふ~ん、箸を箸袋にしまうんだ』
「しまいます、えっ・・しまいませんか?」
『しまわないねぇ・・なんでしまうの?』
「きちんとしたいんです」
『んだけんど、なんか汚くない?』
「何がですか」
『んだからぁ、
食べて汚れた箸をだネ、元に戻すってのは・・』
「礼儀じゃないですか?」
『礼儀・・?だれに?』
「お弁当を作った人とか、売ってる人とか」
『ホオ、なるほど』
「入れませんか・・箸?」
『ボ・ボクは入れないナ、入れたくないナ』
「えっ、イシマルさんに、
感謝の礼儀はないんですネ」
『いやいや、そんな大袈裟ではなくてだね、なんとなく』
「
礼儀知らずなんだ・・」
食後に、コーヒーでも飲みながら、話すことにした。
紙カップにコーヒーをついで、彼に渡した。
『え~ごめん、箸を箸入れに戻すと言う行為がサ』
「はい?」
『その昔、武士がネ』
「はい?」
『人を切った後に、その刀を、血のついたまま鞘に納めると』
「おさめると?」
『と、いった行為に似ているのではないか・・と』
「?」
『つまり、汚れた、いや、
けがれたモノを収めるという行為』
「箸が?」
『いや、武士の刀が』
「え~とイシマルさん、なぜ武士が出てくるんですか?」
『うん、そうだネ、武士は時代錯誤かもしれない』
「でしょ」
『でもネ、君にはサ、武士でも登場させねば、話が通じない!』
「どうしたんですか、突然!」
『いいか、箸を箸袋にしまうのは、君の勝手だ!』
「ごくんっ」
『武士はナ、
刀の血を必ずぬぐってから、鞘に収めたのだ!』
「うぐっ」
『きさまも、
礼儀の心あるなら!』
「うっ」
『
箸をぬぐってから、箸袋にしまえ!』