
《至仏山》しぶつさん 2228m
尾瀬に散策に行った方なら、必ず拝む山が、至仏山。
ほとけにいたると書く、拝みたくなる山。
台風と台風の隙間にできたピンポイントの晴れ間に向かった。
尾瀬には、乗り合いバスでしか行けない。
バスの時刻を調べて、戸倉の村まで、車で辿りつくと、
そこには、路線バスのほかに、乗り合いタクシー(ハイエース)が、
ズラリと並んでおり、料金もバスと同じだという。
「人数が集まれば出発します」
制服の方が教えてくれる。
そこはさすが尾瀬、すぐに人数がそろった。
鳩待ち峠まで、30分。
早朝だというのに、秋の尾瀬、紅葉の尾瀬を堪能しよう、
という登山者が、次々に押し掛ける。
さあ、出発!
涼しい。
ピッチがあがる。
真夏の山歩きのダラダラ汗かき登る苦労は、そこにない。
快適快調!
口笛を吹きそうなくらいの、足軽し・・
登るにつれて、紅葉も進んでゆく。
赤やら黄色、ダイダイに黄緑。
見事な色彩のグラデーション。
おっ、遠くに見える草原は、
《尾瀬が原》ではないか。
緑だった原は、薄茶色に染まっている。
草もみじが始まっているようだ。
草もみじとは、草原じたいが、茶色や黄色に紅葉する様を呼ぶ。
尾瀬的な湿地帯で観られる現象。
やがて、小至仏 (こしぶつ)の手前まで来た。
山には、本来の頂上の手前に、
小だの
前だのと名前の付いたピークがよくある。
仙丈岳における、小仙丈(こせんじょう)、
剱岳における、前劔(まえけん)。
いずれも、登山者が騙されるピークである。
「おっ、頂上は近いゾ!」
張り切って登ってみれば、その先に、
本物の頂上が遥か先に聳えている。
そんなピークの事を、
《だまし頂上》とか
《ニセピーク》などと呼んだりする。
至仏山の小至仏は、さほどのダマサレタ感はない。
むしろ、本峰に向かう心湧き踊るステップとして、
大きな役目を果たしている。
「あそこまで行くんだ!」
「あそこまで行けば、素晴らしい景色が待ってるゾ!」
「あそこの上で、オニギリを食うんだ!」

小至仏