
我が家の朝食には、干物が一品つく。
今朝は、ホッケのひらきだ。
体長25センチ。
ぷっくらしている。
朝食が終わると、皿を片付けるのだが、
この皿の上には何もなくなる。
何が置いてあったのか、分からなくなる。
つまり、すべて私の腹の中に入ってしまう。
身はもちろん、骨も皮も。
バリバリ、ムシャムシャ。
無理やり食べているのではない。
好きなのだ。
特に皮は大好きだし、骨も甘味があって旨い。
残すなんてとんでもない!
誰も見ていなかったら、たぶん、皿をなめる。
残った魚の脂をなめてしまいたい。
一度だけ、なめてみた事があった。
ペロリッ
その時・・・
己が姿がガラスに映っているのが見えた。
犬がいた。
眼がいやしい。
恥ずかしかった。
いやしくも、これは人間がやる行為ではない。
山中遭難とか、洞窟閉じ込めとか、非常事態以外では、
人としての在り方をしっかり保つべきでないのか。
ガラスに映る自分に目で訴えた。
するとソイツは、「わかった」とばかり、
喉ぼとけを上下させたのだ。
なめた旨味を飲みこんだのである。
分かっていない証左だ。
時折、ソイツは、思いもかけない場所で顔を出す。
芝居仲間と北海道に公演に行ったおり、
飲み屋に繰り出す。
北海道なら、ホッケを食わなきゃってんで、
大きなホッケのヒラキを注文する。
やがてやってきたホッケは箸で摘まみ尽くされ、
皮と骨だけが残る。
「もう誰も食べないのかな?」
念押しをして、皿を手前によせる。
そして・・・残ったタンパク質とカルシウムをすべて腹におさめる。
その直後だ。
何もなくなった皿に、顔を近づけようとしている自分がいる。
ソイツが顔を出した瞬間だ。
(いけない、それだけはやめろ)
私が必死でとめている。
最終的には、事なきをえたが、あぶないところだった。
これからは、皿に何もなくなったら、すぐに下げてもらおう。
人間としての品格をなくさない為にも・・・