
「すみません、写真を撮っていただけませんか?」
浅間山の山頂で声をかけられた。
カメラを受け取って、頂上標識の前に立つ彼を見た。
身体の前に厚紙を抱えている。
なにか文字が書いてある。
99
『なんですか、99って?』
「深田久弥日本100名山の、
99座目なんです」
しばし、固まってしまった。
あんですと?
100でもなく、98でもなく、ギリギリの、
99座目の方に出会ってしまった。
しかも、写真写しを頼まれるなんて!
1分登頂が違っていたら、他の人にお願いしただろうし、
気付かなかったに違いない。
『で、100座目はどこなんですか?』
「剱岳(つるぎだけ)です。とっておいたんです。たぶん来年に」
『ちなみに98座目は?』
「御嶽山(おんたけさん)です」
そうか、なるほど、分かったゾ。
御嶽山は今年、登山が解禁された。
んで、浅間山の解禁が3年ぶりに解けたのも、この9月。
つまり、98、99を手ぐすねひいて待っていたのである。
最後に登るべく剱岳に登りたくとも、
御嶽山と浅間山が解禁にならなければ、
いつまで経っても、望みはかなわない。
モンモンとしていたのではなかろうか・・
話によると、20才の時に、初めて富士山に登り、
そのうち、100名山なるモノを知り、
コツコツと登り続け、40歳にして、99座まで達したとのこと。
『おめでとうございます、これまで、最も大変だった山は?』
しばらく考えてから、彼がボソリ。
「ふじさん」