
《あらふねやま》
あえて、平仮名で山の名前を書いてみた。
漢字に変換すると、
《荒船山》
東京から、高崎線に揺られて、ひと眠りした頃、
西の方角に目をやると、おかしな形の山が現れる。
山とは、基本的に三角形をしている。
富士山しかりの形をしている。
しかし、上部がまったいらの山。
空港でもあるのか?
その疑問を抱きながら、目をこらすと、その右端、
つまり、北の端っこが、断崖絶壁になっている。
分かりやすくする為に、ティッシュの箱を持ち出そう。
はい、アナタも箱を手に取ろう。
ティッシュの箱とは、上部がフラットだ。
ですネ!
はじっこは、切り立っている。
ストンと落ちている。
ですネ!
まさにこんな形の山が、首都圏から2時間ほどの場所に、ある。
まず、登山口から歩き始めて、数分で驚く。
登山道に、ガードレールがある!
さほど、急峻な崖のわきを登ってゆく。
常に崖がかかわっている。
3時間も格闘すると、頂上と言われている、
《艫岩》ともいわ に着く。
そこは、さっき見たティッシュの箱のカドッコだ。
ドッチに歩いても落ちたら死んでしまう岩の突端だ。
実際、「落ちた人がいる」と書いてある。
「近づくな」と書いてある。
書いてあるのだが、
断崖とは、覗かない限り、そこがどんな場所かわからない。
テレビ番組では、ドローンを飛ばし、
その全貌を明らかにしてくれるが、
実際、そこにいる人間には、危機感はない。
気持ち的には、「へ~」ってなもんだ。
これが、危ない。
この艫岩でお昼を食べることにした。
どうやら、他の登山者も、同じ考えのようだ。
2m歩いたら、断崖のフチ。
そんな所で、オニギリだのパンだのを頬張っている。
異様な光景である。
童話に、
オムスビを落としてしまい、
コロコロころがる話がある。
もし、この艫岩の上で落っことしたら・・・
コロコロと転がり、崖のフチを越えた途端、
100m以上フリー落下して、
オムスビは、粉々になるだろう。
さらにもし、そのオムスビを、
追いかけようとした御仁がいたらどうなる?
「こりゃこりゃ」
手を伸ばしているうちに、崖をヒョイと・・
語るだに怖い。
では、もし崖の下がどうなっているのか、
見たくなる輩がいたらどうなる。
なぜか、パーセンテージで、(わずかなのだが)
崖の下を覗きたくなる輩がいる。
どんなに禁止しても覗きたくなる。
その中で、やはり、僅かの人が・・・
落ちる。
なぜ、落ちたのか?
どうやって落ちたのかは、本人が語れないので、
知るすべがないのだが、
想像をたくましくすれば、コレに尽きる。
「もうちょっとだけ」
艫岩は、合掌の峰ではありません。
どうか、二度とオムスビを落とさないで下さい。
勿論、アナタも・・

艫岩(ともいわ)の上でお昼