
旅館に行くと、部屋の中に、スリッパが置いてある。
室内はもちろん、館内なら自由にどうぞと勧めている。
「さて、お風呂にいきますか」
浴衣姿に、手ぬぐい片手に、スリッパでパタパタ歩く。
大浴場というプレートの矢印どおりに廊下をすすむ。
ガラガラ
引き戸を開けると、大浴場の入り口だ。
段差があり、スリッパを脱いであがる。
そのスリッパは、そのままでもいいし、
棚にしまってもいい。
ふと見ると、10対ほどのスリッパが、脱ぎ捨てられてある。
っと、ここで、大きな問題が発生する。
《スリッパの所有権問題》
私は、部屋からスリッパを履いてきた。
その時点で、私の足の裏は、そのスリッパになじんでいる。
感覚的には、
マイスリッパ。
自分のモノという感覚がわきあがっている。
旅館の部屋に泊まった時点で、
料金の中に、マイスリッパ代が含まれているかの錯覚をしている。
ところが・・
お風呂場に来てみると、おんなじスリッパが大量にある。
皆がそれぞれの部屋から履いてきて、脱いでいる。
考えてみれば、部屋のスリッパなんて、
旅館側によって、アトランダムに配置されたモノである。
どれがドレなどという区別はない。
ないのだが、部屋から履いてくると、
なぜか、私的所有物の感覚が生まれる。
すると・・どうなる?
脱いだスリッパを、他の人に履かれないようにしたくなる。
「これ、オレのだけんネ」
主張をするべく、棚のはじっこに置いたりする。
他と区別するべくおかしな置き方をしたりする。
よくよく考えれば、
全く意味のない行為なのだが、
《マイスリッパ》の感覚は抜けない。
風呂からあがり、帰りしな、
マイスリッパが見つからずに、
「え~誰かが履いていったんだぁ~」
悔しがったりしている。
全く意味のない事なのにネ。