
大阪の日本橋に、トンカツ丼(どんぶり)屋があった。
昼時、腹を減らして中に入ってみると、
壁にメニューがずらりと並んでいる。
基本形は、《トンカツ丼(どんぶり)》。
これが、変化する。
《セパレート》 ご飯とトッピングが別々に出てくる。
《ダブルたまご》 カツ丼の卵が2個でつくられている。
《ダブルかつ》 カツが2枚入っている。
《スーパー》 ご飯が大盛り。
さらに、
《ダブル卵ダブルカツ》 卵もカツも2倍
《ダブル卵ダブルカツ フルスーパー》 すべてがたくさん!
メニューを見ているだけで、ヨダレが出てくる。
そろそろ注文をしなければ・・
「すみませ~ん、トンカツ丼の
ご飯半分で」
半分のところに力をいれた。
しばし、キョロキョロしながら眺めていると、
入口のガラスに貼ってある紙に気づいた。
大阪マラソン 11月25日(日)
臨時休業いたします
店主が出場しますので
ほお~店主が出るので、店を休むのだそうだ。
ふと目をカウンターにやると、
店主とおぼしき方と目があった。
それなりの年齢を重ねられた方と見受けられた。
私の目が、入口の紙を往復すると、
小さくニコリと歯をみせてくれた。
3秒ほどの間、ふたりは目で会話をしていた。
(フルマラソンで?)
(もちろんフルで)
「アスリートとしての、生き方について」
お互いがお互いの哲学を理解したかのような瞬間だった。
しばらくして、カウンターから丼が届いた。
「ご飯、半分です」
こういうお店では、「半分」と言っても、
7割飯が常識である。
しかし、店主は、きっちりと半分のご飯をついでくれた。
アスリートとしての苦悩を理解している店主である。
「アスリートなら、カツ丼屋など行かなければいいじゃないの?」
という意見は、この際、忘れてもらおう。
茶色にしみ込んだ、トンカツ丼。
庶民の味方の味がした。
790円
11月25日に、その雄姿が観られるのだろうか。
これまで、どれほどの走りをしているのか、
全く存じ上げないのだが、
店主には、ぜひ
自己記録を更新してもらいたい。