
幼稚園の頃だった。
私の爺さまは、大分県の豊後高田市という町で、
映画館を営んでいた。
東映系の映画館、とはいえ、
ありとあらゆるジャンルの映画を掛けていた。
爺さまの子供、つまり私の父親は銀行員で、
休みの日には時折、
家族を連れて、爺さまの家に里帰りした。
すると子供たちは、ほおっておかれる。
「映画館でも行っちきヨ」となる。
まだ5才のけんじろう君も、ほおっチおかれた。
人間の大きな顔が描かれた入口で、キョロキョロしていると、
切符切りのオジサンが手招きしてくれる。
「ケンボかい?ほら、はいりぃ~」
けんじろうこと、ケンボと呼ばれる私は、扉をあけられ、
真っ暗な魑魅魍魎の世界に誘い込まれる。
その途端、大音量が響く。
正面の四角画面に、大人の人たちが、
刀を振り回し暴れまわり、大声を発している。
何を喋っているのか分からない。
ギャーギャーワイワイ
(今思えば)白黒のスクリーンが、
タバコの煙でモウモウとしていた。
《えいがかん》は5才の子供にとって、
暗闇と轟音が響きわたる洞窟であった。
時折、歓声がおこり、笑いがおき、拍手がなった。
最後尾に座った私の背中には、薄明りの漏れる売店があった。
オバチャンと目が合うと、手招きしてくれる。
そこには、パラソルチョコレートだの、
サイコロキャラメルだの、風船ガムだのが積まれてあり、
「はい、コレ」
オバチャンから手渡されたガムを、その場で口に押し込む。
カチョン!
ラムネの瓶を渡される。
カラコロいわせながら、席に戻る。
異空間にほおり込まれたけんじろう君には、
えいがかんとは、おやつを頂く喫茶場所だったようだ。
そして、目の前で繰り広げられる、白黒の、
《ばけねこ》が怖かった。

けんじろう君