モグラが死んでいた。
そこは、神奈川県の箱根の明神が岳。
《ハコネダケ》という笹の群落の道を歩いていた。
高さ4mほどのハコネダケは、時折トンネルさえ作る。
道幅2m。
登山者が歩いているうちに、自然とできあがった道だ。
冬は、風を防いでくれるので快適なのだが、
見晴らしが効かない。
時おり現れるハコネダケの切れ目から見える箱根の本山に、
思わず声があがる。
「おお~おおわくだに(大涌谷)だぁ~!」
おおわくだに、の発声をする時は、
必ず感嘆詞の「おお~」を付ける。
単なるダジャレではない。
なんたって、ついこの間まで、噴火の兆候がみえた活火山。
その息吹きが湯気となって噴き出し、
硫黄の臭いを遠くまで運んでくる。
だから、「おお~」は必需品。
んな、アホな事を考えながら登っていると、
足元に小さな黒い物体が落ちていた。
ん・・?
《モグラ》?
確かにモグラだ。
なぜ死んでしまったのかは不明だが、
・・んだばっかり・・状態である。
っと・・山の新人ウメちゃんが・・
「モグラ、初めて見ました!」
あんですと?
モグラというモノは絵本に出てくるもので、
実物は初めてだとのたもう。
どうも、モグラを見た事のない方は、
ネズミと同様な動物と誤解しているフシがある。
しかし、モグラの毛皮の美しさを見たら、
考え方がガラリと変わる。
その毛皮は非常に美しい。
黒であったり、灰色であったりするのだが、
短い毛が、ツヤツヤしている。
なんたって、地面の中で、
土や泥が一切付着しないような毛皮にしつらえてある。
触ってみると、滑らかで気持ちがいい。
大きな動物だったとしたら、毛皮職人によって商品にされ、
とっくに、絶滅危惧種に指定されていたかもしれない。
小さくて助かった。
失礼して裏返してみると、
長い鼻と反っ歯の口が見える。
アニメや、日本昔話に出てくるモグラの顔があった。
手足の爪は鋭く、トンネル工事に向いている。
何がおこって、登山道で最後を迎えたのか定かでなにのだが、
少なくとも、新人ウメちゃんの、
モグラに対する考え方を変えたのだけは確かだった。
遠くのピークは、金時山(きんときやま)