
《朗読劇》 リーディング
岐阜県、可児市(かに)にアーラという劇場がある。
6年前に、《高き彼のもの》という芝居をやった場所である。
一か月半の間、可児の街のアパートに住み、
毎日自転車に乗って、アチコチ走り回った。
ある朝、奇なる自然現象が起こった。
《皆既月食》
空がどんどん暗くなり、やがて不気味なというか、
妙な大気の中にいる私がいた。
足元を見ると、自分の影が二つにダブっている。
月の両側から漏れた太陽の光が、二つの影として見えている。
横のポプラの樹の葉っぱも二重にダブっている。
そして又ある日は、二つの事件が重なった。
自転車で走りだした私は絶好調だった。
とある交差点に差し掛かった時、青信号を突っ切ったのだが・・
そこには、自動車と人間の歩く歩道との境の段差があった。
それに気づかず、縁石に突っ込んだ私。
ドッカ~~~ン!
天地がひっくり返った。
私のからだは、宙をとび、一回転して、
6~7m先のコンクリに落ちた。
あとから降ってきた自転車のサドルは、ひん曲がっている。
ハンドルもアッチとコッチに曲がっている。
あまりの身体の痛さに身動きできないでいた。
「大丈夫ですか?」
信号で停まっていた車から、
ドライバーの方々が心配しておりてくる。
『なんかぁ~大丈夫みたいです』
ヨロヨロと起き上がり、深くおじぎをして、
壊れた自転車の修復にかかる。
幸い、私も自転車も丈夫に出来ていた。
再び走り出す。
目指すは、木曽川の河原。
そこは、奇岩奇勝の地。
川岸がゴツゴツとして探検心をくすぐる。
岩をつたえない箇所は水の中に入る。
いったん入水すれば、初夏のことでもあり、
そのまま進む。
ジャブジャブジャブ
しばし、川の中をころびまろびつしていた。
すると・・・
頭上がなにか、かまびすしい。
見上げると、橋の上にたくさんの人が集まり、
私に手をふっている。
「大丈夫ですかあああ~~~」
どうやら、「人が川で溺れているゾ」騒いでいたようだ。
『だいじょうぶで~~す』
深くおじぎして、その場を去った。
一日で二回、人に「大丈夫か」と心配されたのが、
可児の町の想い出となった。
先日、その町で、朗読劇をおこなった。
《恋文》こいぶみ
恋文コンテストで送られてきた原稿を、20編ほど、
舞台の上で、二人で朗読する。
お相手は、市毛良枝さん。
たまたまなのだが、二人とも山登りにいそしんでいる役者。
ピアノの生演奏で、独特の世界をつくりだす。
可児では、いつも珠玉の作品に出会える。
今回は、「大丈夫ですか!」と言われなかった。
すこしだけ成長した。

可児で暮らしていた時のアパート