
「タクシーが掴まらないヨ~」
師走である。
流しのタクシーを掴まえようとしても、
空車が来ない。
仕方ないってんで、飲み屋に入り、一杯呑みながら、
タクシー会社に電話してもらう。
返事はいつも同じ。
「今、出払っていて、待ってもらえますか」
これじゃあ、いつタクシーが呼べるか分からないってんで、
再び、街頭に立つ。
タクシーの前窓の左隅に点灯している明かりが、
みんな、ミドリ色。
赤く点灯した車が来ない。
赤い『空車』の文字が視たい。
赤が求められている。
赤、赤、赤・・・あ~~か!
どこかに赤い点灯がないか、頭ごとグルグル回す。
目が、
赤に反応するセンサーになりつつある。
小さな赤い看板にすら反応する。
だれかが付けたタバコの赤い火にも目がいく。
っと、遠くから一台の赤い点灯が近づいてくるではないか!
そちらに、タッタッタと歩み寄る。
すると・・
私より、もっと手前に数人の手を挙げる人たち。
っと思いきや、そのさらに先で、一人の男が、
手ではなく、身体ごとタクシーの前にとび出し、
両手を振っている。
なるほど、切実さが違う。
あれではかなわない。
そのうち、
身体をタクシーにぶつけて止める人すら、
現れるのではないかと、要らぬ心配までしてしまう。
よお~し!
ってんで、タクシーの流れてくる上(かみ)の方角に歩き出す。
もちろん、みんなも歩き出す。
人を追いこさんばかりに速足になる。
上に上にと進むのだから、
本来の帰る方角から遠ざかっているのだが、
そんな事は言っていられない。
どんどん遠ざかるべく速歩きになる。
周りは、競歩の選手たちでいっぱいになる。
スポーツの競歩との違いは、
皆がカバンを持っている点だ。
タッタッタッタ
なぜか走る選手はいない。
マラソンに変化しないのは不思議である。
まだまだ切実さに欠けているのかもしれない。
あるいは、
皆が走り出すという恐怖に怯えているのだろうか。
全員が走り出すというキッカケの火をつけたくない。
もし皆が走り出したとしたら、
酔っている自分がついていけるだろうか?
心臓は耐えてくれるだろうか?
医者に叱られるだろうか?
クリスマスイブに、路上で息を引きとりたくない。
「アッ赤だ!!!!」