
《おやまの杉の子》という歌があった。
昔々 その昔
椎の木ばやしのすぐそばに
小さなおやまが あったとサ~ あったとサ~
まるまる坊主の はげ山は
いつでもみんなの 笑いもの
これこれ杉の子 起きなさい
お日様にこにこ 声かけた~ 声かけた~
先日、神奈川県の三浦半島の、ある山に登っていた。
頂上に近づいた頃、どこかから、
ハーモニカの音が聞こえてきた。
昔聞いたことのある調べだ。
なんだっけこの歌・・・?
すると、河津桜のピンクと、
菜の花が咲き乱れるその先で、
人生の先輩と思しき方が、一人でハーモニカを奏でていた。
「♪~丸々坊主のはげ山は~♪」
ハーモニカとは、哀愁ただよう音色の楽器である。
それを、青空に向かって、
深ぶかしくおじぎをするかのように、
「おやまの杉の子」を吹き続けている。
いっとき、音がやんだ時を狙って話しかけてみた。
「いつも、ここで、吹かれているんですか?」
『平日はネ』
「失礼ですが、お年は?」
『あはは、70超えたかナ』
「この山は、よく登られるんですか?」
『あ~毎日3往復しとるだわナ』
「え~?3往復ということは、3回登ったり下ったり!」
『ん・・』
「で、ここでハーモニカを吹いておられるんだと?」
『誰もおらんからヨ』
よくよく聞いてみると、正確には、4往復しているらしい。
その途中に、30分ほどハーモニカを吹いているそうだ。
ミュージシャンでも何でもない。
個人的な娯楽である。
ハーモニカも、小学生が使っている簡素なモノ。
素朴きわまりない音がする。
「明日も来るんですか?」
『わからん・・高い山は登れんからナ』
きびすを返すなり、脱兎の速さで、山を駆け下りていかれた。
『登れんからナ』と言いながら、
累積標高差1000mを、毎日闊歩している。
時折、『かっこいい人』に出あうことがある。
この方との出会いは、
しみじみとしたセピア色に包まれていた。