
《木曽(中央)アルプス》
「今日、飛行機でそちらに向かいます」
日本国内でこの言葉をはけば、その飛行機とはすべて、
ジェット機だ。
ジェットで推進する飛行体。
ところが、その昔は、ほとんどの飛行機が、
《プロペラ機》だった。
何がどう違うのか?
構造だのの話をしたいのではない。
客としての乗り心地の話をしたい。
今現在、飛行機に乗っていて、気流が乱れた時、
機体が揺れる。
ジェット機が、グラグラ揺れる。
「私達キャビンアテンダントも機長の指示に従い着席します」
嬉しくないアナウンスが流れる。
「いやあ~今日乗ってきた飛行機、信じられないほど揺れてサ」
飛行場に迎えにきてくれた友人に、揺れを大げさに語る。
しかしである・・・
比べてみると、その昔の、
プロペラ機の揺れたるや、驚くべきものがあった。
先ほどの、「信じられないほどの揺れ」どころではない。
レベルが違う。
特に、下降している時に、大きな雲に突入した際は、
揺れを通り越し、
ドスンと落ちた。
いわゆる
エアーポケット。
一瞬身体が浮く気分。
ふわぁ~
目の前のテーブルに置いてあるトレイが浮いて顔の前まできた。
その後、グニャリグニャリと機体が捻じ曲げられる感覚で、
下降が続く。
前の席の背もたれに入れてある
紙袋の意味を理解した。
脱いでいた靴が、右に左に前後に動き回り、
いなくなる。
(飛行機内で靴脱ぎはしないほうがいいと、悟る)
キュッ
タイヤがきしみ、
優れた操作でランディングした機長に、
客たちから称賛の拍手が涌く。
パチパチパチ
東京羽田から、大阪伊丹空港までの小一時間、
汗みどろ、心臓バクバク、ふらふらの遊覧飛行。
そのあと演じた私の芝居の公演は、どうだったのだろう?
覚えていない。
いないが、ひょっとすると、
生きるか死ぬか・・・
とんでもないテンションの芝居だったかもしれない。

《南アルプス》