芝居の旅ってえのは、貧乏旅行を絵に描いたようなもんで、
サイフの中に
マンサツを持っている奴を
捜す方がむつかしい。
出演者にしてからそうなんだから、裏を手伝っている
役者の卵たちに至っては、
物理的に 「かるい貨幣」 を持っていない。
だから、彼らのポケットは旅に出る前に
袋が
二重に縫い付けられている。
(よもや破れて、財産が無意識の散在をしないためだそうだ)
つねに、
チャリ~ンという音に対して、異常に敏感になっている。
その彼らは当然の如く、
食事という事に関して、
涙ぐましい努力をしている。
朝飯はホテルに最初からついている場合に限り、
間違いなく目覚ましをかけてつめこみ、
ついていない場合は、その状態が何日続こうとも
知らん振りをしている。
昼飯は、出演者に差し入れられたお菓子類を、
ご飯と
いつわって腹に詰め込んでいる。
そして、ディナータイムにはひとり頭200~300円を
出し合って、持ってきた炊飯器で米を炊き、
ささやかな惣菜を買い求め、
高速に動くハシに恥じることがないようだ。
そのビアフラのように(たとえが古いかな?)やせ細った彼らに、
ある旅、<新潟公演>でとんでもない天変地異がふりかかった。
ことの発端はわれらが役者の
うなぎのぼりの人気度だった。
その新潟に来てから、われらの芝居の人気度は
うなぎのぼりに登り、うわさが噂を呼んで、
芝居が終った後に、差し入れ(おみやげ)を持ってくる人たちが、
うなぎのぼりに増えた。
ここで、思い出して欲しい。
そこは新潟である。
新潟といえば、日本酒である。
日本酒といえば、
さしいれである。
この三段論法により、
さしいれに日本酒が
うなぎのぼりに。増えた
(もう、
うなぎはいい!ちゅうの!)
それも、あろうことか、そこらの酒屋で手に入るような安酒ではない!
越乃寒梅(こしのかんばい)?
あたりまえ・・・それも特選!
「吉の川」 「銀のなんとか」 「雪がどうした」 「鶴と結婚したような」
エトセトラ~
酒屋で同じものを求めても、
一万はくだらないような
絢爛豪華な数々。
もちろん、酒屋の最上段を飾り、
紙巻きはあたりまえ、箱入り、それも桐の箱いり!
桐の箱には、墨筆の説明書がみつおりで・・・
家政婦は見た!
楽屋のドアが閉まらないように止めておく為の
重石に、
越乃寒梅を使っているのを!
そうそう・・、話しを戻そう。
その桐箱と、ポケット二重人間がどう結びつくか。
イシマルは見た!
夜・・かれらの部屋をのぞいてみると、
『ゴクッ!』
なんと!あの現代日本の
貧乏の象徴といわれた彼らが、
日本最高級のお酒を
カポカポと、まるで真夏のビヤホールのように
飲んでいるではないか!
バスルームに備え付けの
うがいコップで・・・・!!!
夢のような名前の一升瓶が4・5本ころがっっている。
「お・お・おまえたち・・まいばんコンナコトを・・・」
返った言葉が
「ビール買ってきてもらえますかァ~」