
「イシマルさん、『バッシング』です」
ドラマのロケ現場で、共演者がのたまう。
私が喋ったセリフはこうだった。
「そんな事したら世間から、パッシングされるだろ」
間違いですと指摘された。
されてみて初めて気づいた。
言い間違えたのではない。
これまでこの言葉を私は、《パッシング》と発声していた。
バッシングではなく、パッシング。
バではなく、パ。
BではなくP.
完全に思い込み間違いをおかしていたのである。
ここはひとつ、やはりアレを出すとしよう。
ガア~~~~~~~~ン!
恐らく、パッシング(バッシング)という言葉を覚えて、
この道50年。
人前で使い続けてきたと思われる。
誰からも間違いを指摘されず、異に関されず、
ほおっておかれた。
ナレーション原稿にも、間違いなく一度も登場することなく、
たとえ普段「パッシング」と読んだとしても、
カクゼツの悪さから、
「ああ、この人は、バッシングと言ったのだナ」
と良いほうに誤解され、そのままに通過してしまった。
そして一昨日、共演者によって、その実を暴かれた。
「あきらかに間違いです。このままでは、
ドラマとして不実になってしまいます」
まわりの役者たちも、小さくうなづいている。
「まさか、ずうっとパッシングと言っていたんじゃないでしょうネ」
ドキッ
心臓が180回ほどの心拍数にハネあがったのを悟られないように、
言葉を発する。
『時代の趨勢だネ』
わけのわからない口先だけの返事になった。
「パッシングじゃあ、あおり運転ですヨ」
うむ・・そうか・・バ・・か。
これは、きちんと慣れておく必要があるナ。
こっそり、バッシングの発声練習をしておく必要があるナ。
バッシング、バッシング・・と。
私が、ブツブツやっていると、
肩が20センチほど落ちた私をみかねて、
後輩の役者が慰めてくれた。
「いや~イシマルさん、
よくある事ですヨ」
・・・
よくは、ないと思う・・・
その上、
「いや~イシマルさん、日本語って、難しいですネェ~」
・・・・エイゴだし・・・