《春子鯛の調理はご遠慮ください》
山口県の魚屋さんで見つけた張り紙である。
実に小さな鯛である。
5センチに満たない体躯をしている。
地元名が、春子鯛(はるこだい)らしい。
買ってくださるのは嬉しいが、
「三枚におろして」だのという調理はご免だと述べている。
いや、懇願している。
十羽ひとからげとは言わないまでも、
ただでさえ安い魚だ。
魚屋の身にもなってくれという思いが、
文字に込められている。
魚屋とは、よくよく考えてみるに、
究極のサービス業だ。
生魚をお客の口元に合わせて、刺し身にするほどの、
サービスを施している。
「あとは、醤油とわさびを付けて食べるだけですよ」
生モノで、これほどのサービスはない。
試しに、スーパーに行ってみるがよい。
作られた食品の中で、生モノを購入し、
あとは、箸さえあれば食べられるモノは、
刺し身しかない。
「ローストビーフがあるじゃないか!」
とこぶしを挙げた方がおられたら、一応正しておきたい。
ソレは、表面に火が通っているので、生とは・・・
そして、その刺し身のパックには、
小さな醤油と、四角いワサビも付いている。
つまり、料理として完結している。
ここまでの配慮を、魚屋さんがしている。
もっと言えば、栄養にまで配慮して、
ツマという名の大根の千切りと大葉を配し、
アナタの明日からの健康をお祈りしている。
もっと言えば、(アナタは食べないかもしれないが)
茶色の海藻とシソの実、黄色い菊の花を添え、
見た目の食欲をそそった上で、多分の栄養に貢献し、
しかも、油を一切使用していない歯切れのよさ!
スーパーの魚屋さんのお刺し身コーナーは、
♪~鯛やヒラメの舞い踊り~♪と歌われた、
竜宮城の玉手箱なのです。
乙姫様の贈り物と言ってさしつかえない。
我々は、今以上に魚屋さんに、
感謝と尊敬の意を、
発しなければといけないのではないだろうか・・