
ドサッ!
何かが、左10mほどの山の崖から落ちてきた。
そこは、岩手県、早池峰山の登山口から、
舗装道路を10分ほど歩いた場所である。
5時間ほどの山登りを終え、仲間と、
停めてあるハイエースの所まで歩いて戻っていた。
どうせ、登山口を通過して帰るということで、
車のカギ以外を全部、登山口に置いて、空身で歩いていた。
っと、突然・・
ドサッ
道路の左側の崖からなにやら落ちてきた。
真っ黒い・・
首のあたりに白いものが見える・・
大きい・・
クマ・・?
緊張がはしる。
(うごくな)
クマに遭遇した時の鉄則を思い出す。
(逃げるな)
決してやってはいけない禁句が浮かぶ。
(目をそらすな)
そらさないものの、睨んだほうが良かったっけ?
距離にして、10m弱。
クマが襲おうと思えば、1秒とかからない間合い。
ぶ・・武器がない。
カギだけだ。
しかも最近のカギは、尖った金属部分がない。
ところが・・・
奴は、ドサッと落ちた。
たぶん、何かを失敗をしたのだと察する。
動物が、
落ちるだの
滑るだのは、失敗した時だと思う。
例えば、猫が木にとびうつった時、失敗することがある。
すると猫は、
「別に、たいしたことじゃないのよねぇ~」
とばかり、身体をなめたりして誤魔化す。
あれは、失敗を恥じている。
見られた事を知っている。
その証拠に、チラッと人間様を気にする。
これと同じことが、クマにも起こるのではないか?
ドサッと落ちた所に、人間がいた。
「失敗を見られたかもしれない。
ど、どうする、襲おうか・・
それともこの場を去るか・・」
漫画で表現すれば、クマのほおに、汗がツ~と伝っているハズ。
一秒足らずの後に、身をひるがえし、
暗い森に消えていった。
残された私に震えはなかった。
しかし、覚悟していたかと問われれば、自信はない。
後で聞けば、
一緒にいた仲間の腕をつかみ、
自分の方に引き寄せていたらしい。
今、震えはなかったと述べたが、怯えてはいたようだ。
まあ、クマ側に押し出していなかっただけでも、
良しとしようネ。

早池峰山頂上に立とうとしている