《ウマオイ》という虫を知っているだろうか?
種でいえば、バッタだ。
太ももが異常に発達しており、
身体の大部分が、太ももと言っても構わない。
その太ももで、ジャンプを繰り返す。
バッタ界の、
ロングジャンプ、ハイジャンプチャンピオンである。
ウマオイは鳴き方も、秀でている。
秋の虫で、鳴き声を聞けば、たいがいの人が知っている。
「スイッチョ!」
スイッチョと鳴く。
言葉通り、スイッチョと鳴く。
誰が聞いても、スイッチョとしか聞こえない。
鳥や虫の鳴き声を日本語で表現したききなしの世界では、
突出したピッタリ表現である。
スイッチョ!
「ウマオイ鳴いてるね」
石丸探検隊の隊員がのたまう。
「えっ・・・・・・聞こえない・・」
私が応える。
ウマオイの鳴き声は、ものすごく声質が高い。
オクターブが遥か上の方で鳴いている。
スイッチョ!
言い換えれば、《モスキートーン》である。
蚊の鳴き声と訳すべき、非常に高いヘルツの音域だ。
人間は、年を経るにしたがって、
高い音域が聞こえなくなる。
若者には聞こえても、オジサンには聞こえなくなる。
スイッチョ!
このウマオイの鳴き声が聞こえない。
ゆえに、思いもかけない感想が漏れたりする。
「最近、ウマオイがいなくなったね」
実は、いるのに、聞こえていなかっただけなのだ。
この現実を指摘された。
愕然とした私が、うなだれながら、
原野の中で書をしたためた。
【うまおいの スイッチョ耳せぬ さびし秋】
けんじろう