
船酔いしたことがありますか?
あると答えた方は、悲しい経験をしたでしょう。
二度と、船に乗るものかと思ったでしょう。
ないと答えた方は、するつもりもないし、
それがなんなのと思ったでしょう。
船酔いはつらい。
苦しい。
「逃げられない」という、
海の上の拘束された場所にいるプレッシャーで、
自分が、人間でなくなりそうな気分を味わう。
私は、船酔いの経験が少ない。
35年前に遡らなければ、その経験を思い出さない。
それは、ヨットが追い風を受けて進むという、
ヨットマンでさえ、気持ちが悪くなる状況の中だった。
オエッ
車酔いでは、胃の中のモノを吐いてしまえば、
酔いは収まる。
しかし、船酔いは、別物だ。
確かに、吐いてしまえば、いっとき症状は軽くなる。
どころが、船は揺れ続けている。
再び、胃袋がうらがえりそうになる。
オエッ
これを繰り返す。
船に乗っている限り、この艱難辛苦から逃れられない。
35年ぶりだった。
太平洋に2時間繰り出した遊漁船は、
木の葉のように、海に弄ばれていた。
酔ってしまった。
私は、もう船酔いをしない人間だと思い込んでいた。
ゆえに驚きもした。
オエッ
船べりにしがみつき、乱高下する波の頭を見ながら、
「死ぬことはない!」
歯ぎしりをしていた。
「船酔いで死んだヤツはいない!」
声に出してみたのだが、ふと、本当にいないのか?
疑問がわいた。
実は、いたのだが、
ひた隠しにしているだけじゃないのか?
それとも私が、
船酔いで死んだ最初のヤツになるのだろうか?
弱った時は、ロクなことを考えない。
そうだ、こんな時は、楽しかった時のことを思い浮かべよう。
え~とぉ・・山の上で見た素晴らしい夕焼けを思い出した。
その直後、その景色がグニャリとゆがむ。
下腹からなにかが込みあげてくる。
あっという間に、悲しい現実を突きつけられる。
オエッ
船酔いの良い点をひとつ教えましょう。
船から地面に降りたら、すぐに治ります。