
写真のこの方が持っているモノが分かるだろうか?
谷川岳の肩の小屋の小屋番の森下さんである。
常日頃、ぼっか(歩荷)と称して、
重たい荷物を山の上まで運び上げている人だ。
それが、山小屋に泊まる人たちの食糧であったり、
飲み物であったりする。
山小屋でビールが飲めるのは、この方のおかげだ。
持っているのは、大きなリュックサック。
写真の黒い部分がリュックの上の入り口。
その下の方に、腕を通して担ぐ部分が見えている。
さて、このリュックの容量はいかに・・?
普段登山者が担いでいるのは、
日帰りであれば、20~40ℓ
山小屋泊で、40~50ℓ
テント泊でも、60~70ℓ
さて、冒頭のリュックは・・・
120ℓ!
そんなリュックがあるのかと、質問してみたら、
特別に造ってもらったのだそうだ。
いろんなモノを詰め込むと重量は、
80キロほどにもなるらしい。
いざとなれば、人ひとり、中に入れて担げるかもしれない。
それを標高1900mの高みまで担ぎ上げる。
肩にくい込むとか、腰に負担とか、膝が笑うとか、
そのレベルではない。
「担いでいる時には、話しかけないで貰いたいんです」
なるほど、喋るのが困難なほどの、
艱難辛苦にあえいでいるワケだ。
『うわぁ~なんキロあるんですかぁ~?』
「・・・・・」
『何が入ってるんですかぁ~?』
「・・・・・」
愛想の悪いひとと思われたくないので、
なんとか踏ん張ってお答えするのだが、
笑顔すらできないキツイ状態を理解してもらいたいそうだ。
『だったらリュックに、
お話ができません』
と書かれた紙を貼っておけばいいじゃないかとの、
私の提案には、
「そんな、人を拒否するような真似はできませんヨ」
きっぱりと断られた。
山男の美学に触れた一瞬だった。