
井戸があった。
古井戸だから、今は、積極的に使われていない。
木で塞がれたフタをはずす。
のぞき込む。
はるか下、8mほどの所に、自分が映っている。
といいう事は、4m下に水面があるという意味だ。
試しに、「おおい!」と呼んでみた。
わ~~んと響く。
次に大きめの声でよんでみた。
すると、水面に小さな波紋がたった。
振動が伝わったとみえる。
昔から、井戸があると覗き込みたくなる。
そこに、神秘的な何かを感じる。
映画「リング」のホラーの怖さから、
井戸を嫌う人がいるのだが、
私は好きだ。
子供の頃には、井戸水は貴重なモノであったし、
夏場のスイカを冷やす場所でもあった。
紐で吊るしたスイカを引きあげる時の興奮は、
なにものにも代えがたかった。
引っ張りあげながら、
「もし足が滑ったら、自分が井戸に落ちるよナ」
この恐れは常にあった。
あったが、スイカにかぶりつく楽しみがその恐れを消した。
時折、井戸の底の水面に顔を映した。
はるか遠くに自分がいる。
鏡は、水平に自分の顔をみているが、
井戸は地球の底にいる自分が見あげている。
興味津々という顔付を知った。
(アイツは、良く似ている地底人なんだナ)
そして、必ず最後にやった事は・・・
最速の速さで、顔を引っこめるのである。
ひょっとすると、
下の自分が遅れるのではないか?
そんなことはあり得ないとは分かっているが、
もしかして・・