東京は新宿に、ゴールデン街という飲み屋街がある。
40年以上前にしきりに通い詰めた覚えがある。
ここ30年ほど、行っていないのだが、
時折、ゴールデン街を素通りすることがある。
軽がやっと通れるほどの小路が幾本もはしり、
その両側に、ぎっしりと店がならんでいる。
二階建ての建物のみだから、
店の数はどれほどあろうか?
ほとんどがカウンターバーであり、
10人も入れば満杯の店ばかり。
ただただ、酒をチビチビやりながら、話に花が咲く。
時事放談、マニアックな話、芝居のはなし。
ときには、喧嘩腰になりながら、朝まで呑んでいる。
ゴールデン街の中で、ハシゴしたりする。
先日も、昼間に通りかかったが、
40年前に足しげく通ったバーが、まだ健在していた。
マスターが同じかどうかは定かでないが、
看板の文字をみると、当時のままのような気がする。
狭い店の片隅に、いつも座っていたのが、今は亡き、
《たこ八郎》だった。
ボクシングでパンチドランカーとなり、
少々、おかしな言動で笑われていたが、
なぜかお客に人気があり、
誰からも酒をおごって貰っていた。
そういえば、戦前のその昔、《仙台四郎》と呼ばれる、
着物を着たおっちゃんの写真が、
飲み屋の商売繁盛の守り神ように、貼られていた。
仙台四郎の訪れる店が、なぜか繁盛したのである。
「たこちゃん、たこちゃん」と呼ばれ、
たこ八郎が親しまれていたのは、
今考えてみるに、ゴールデン街の、
《仙台四郎》だったのかもしれない。