歯が痛い・・・
突然、歯が痛みだした。
虫歯もない筈の歯が、ストライキを始めた。
どのくらい痛いかと云えば、しばらく
ウズクマルほど痛い。
わたしなりの表現をしてみたがこればかりは、
個人の評価であって、普遍的な痛みを表現していない。
これは、痒みにも云える。
痒さは、人として普遍的な数値はつけられない。
はずなのに、
その昔、高校時代の同級生のイワイ君(仮名)が、
ある夏、先生に向かって手をあげた。
「言っときますが、ボクは蚊に刺された時、
ほかの人より、痒いんです」
言われた先生も、同時に聞いた我々も驚きつつ、
その意味を理解しようとした。
「ほかの人より、痒い」
ふ~む・・
どういう基準で、おし測ろうとしているのだろうか?
痒さを計測するメジャーそのものが分からない。
それでもイワイ君は、主張し続ける。
「蚊に刺された時、ここにいる誰よりも痒いんです」
一応、イワイ君の名誉の為におさらいしておくが、
彼は、わがクラスの学級委員長であり、高校卒業後、
立派な職につき、今も人に尊敬されている。
いい加減な思いつきで、喋ったセリフではない。
「ここにいる誰よりも」
この言葉に注目したい。
一見、自分主体のわがままな言葉に思えるが、
じつは、他の人を思んぱかっている。
さすが学級委員長である。
彼からすると、現在の私のなんと不甲斐ないことか。
あまりの歯の痛みに、
駆け込んだ行きつけの歯医者さんのベッドが、
電動で倒れてゆくさなかに、つぶやいたのだ。
「先生、僕はたいがいの痛みには強い人間なんですが、
今日の痛みは、その僕でさえ、ィタタタタタタタタ」
マスク越しの先生の目は、冷ややかだった。