朝、目が覚めベッドから起き上がると、最初にする行為がある。《フクラハギのストレッチ》
ところが、その時の形がかなしい。
起きてすぐに歩き出すのは自由だが、ストレッチをしたかしないかで、
その日の筋肉の状態は、かなり変わる。
しなかった場合、しばらくの間、ヨボヨボ歩いたりする。
した場合、いつでも戦闘状態でいられる。
そんなに違わないだろうと思った方は、
していない方とお見受けする。
フクラハギは、第二の心臓と呼ばれ、
全身に血液を送るポンプの役目の一端を担っている。
重力に逆らって足の方から、血液を持ち上げるには、
フクラハギの筋力が必要だ。
心臓病とフクラハギは密接に関係していると説く医者すらいる。
こんなことを朝っぱらから考えてストレッチをするのではない。
単に気持ちがいいから、フクラハギを伸ばしている。
問題は、その形である。
《泣いている》
子供が、叱られて壁に向かって泣くとき、
片腕を曲げ、壁に腕を押しつけ、その腕に目をこすりつける。
ストレッチは、このポーズをとったまま、両足を壁から遠ざける。
60センチほど壁から離す。
つまり、身体をまっすぐ斜めにして壁にたてかけていると考えよう。
その形が、泣いている姿にそっくり。
この形を確立して久しい。
10年を超えている。
それ以前は、両手を伸ばして壁をつっぱっていた。
しかし、起きたばかりで、腕立て状態はしたくない。
そこで、壁に片腕のヒジらを固定する形を学んだ。
気にいった。
まだ暗い室内で、泣きのポーズが30秒以上続いている。
もし誰かに見つかれば、人生を嘆いていると思われてもしかたない。
昨夜、かなしい事があったのかと、いぶかれてしまう。
そして悲しいことに、人というものは、
形が心に及ぼす影響はおおきい。
まったく脈略がなく、頭を抱えてうずくまると、
なんだか困った時の心境がうかんでくる。
「いったいどうしてくれるんだ!」
頭の上に、セリフのルビが浮かんだりする。
それと同じで、
泣いている形をとると、どこか悲しい気持ちが湧いてくる。
朝から、こんなではいけない。
解決策として、ポーズをとっている時は、
この言葉をつぶやいている。
「だるまさんがころんだ」