前々からやってみたかった あるモノの食べ方がある。あるモノとは、《牛タン》
牛タンを食べる時は、たいがい薄く切られている。
焼肉屋などでは、ミリ単位のヒラヒラしたものが運ばれてくる。
「サッと炙ってお召し上がりください」
あまりに薄いものだから、サッとなどと示唆されなくともすぐに焼けてしまう。
「おい、もう焼けたゾ」
焼き過ぎに注意しなければならない。
そうなのだ・・・
かねがね、この薄さが気になっていた。
厚いタンというものは、ないのか?
タンを厚く切ったらいけないのか!
厚く切って食べるのは違反なのか!
ドン!(机をたたく音)
そんな時だった。
とあるスーパーの肉売り場に、それが一本丸まま、
ドデ~ン!と鎮座していた。
持ってみた。
ズシリッ!
見た目を超えた重さがあった。
直径8センチ、長さ20センチ。
アメリカ産だと書いてある。
タン、舌、ベロの《丸ごと買い》をしてみた。
初めての買いモノだったので、緊張した。
(全部食べられるだろうか?)
そうか・・好きな厚さにカットしていいのか!
《好きな厚さ》
なんと素敵な響きだろうか?
昔から、好きな厚さのトンカツを食べたかったし、
好きな厚さのステーキを立てて食べたかった。
吹けばとぶような薄いタンに忸怩たる思いをしていた私は、
このズシリとした重さを感じながら、分厚いカットを想像していた。
1センチ?
(気が弱いゾ)
3センチ?
(やり過ぎかな)
5センチ?
(叱られるかな)
いやいや、いっそ真四角にして、立てて焼いてみるかな?
(焼けるかな?)
まるまま?
(いくらなんでも、やり過ぎだし、食べられない)
「おい、けんじろう、勇気を持て!」
牛の反芻の声が聞こえた気が舌。
8×8×8