《灯台もと暗し》とはこのことだ。
最近、アチコチに出没し、ピアノを弾いている。
お聞かせするほどの腕はないのだが、本人が弾きたがっているので、
許してもらっている。
道の駅だったり、音楽ホールのエントランスだったり、
ロケ先の劇場だったり、ホテルのロビーだったり、
ん・・・ホテル?
10数年前から、足しげく通っているのが、
与論島である。
先日、ホテルのレストランの使われていない二階に、
なんとなく足を運んだ。
すると、ソレが鎮座していた。
真っ白いグランドピアノ。
「すみません、コレ弾いていいですか?」
フロントですぐに許可がおりたものの、フタを開けてみると、
ピアノ線が3本ほど千切れており、音があやしい鍵盤もある。
ま・いっか・・・
ポロロ~ン
すると、スタッフのひとり、イサ君が遠くで見ていた。
「このピアノはですね、その昔、
映画007に出ていた船に乗っていたピアノなんです」
『あんですと?』
「豪華客船007号を買い取った時に、ピアノまであったんです」
『買い取った!』
「それ以来、ココに置いてあるんです」
って、いったいどのくらい前の話なんだろう?
当時のパンフレットを探してくれて、それを見てみると、
おお~映画007の中で見た事のある豪華客船じゃないか。
たしか悪の親玉がふんぞりかえって乗っていた記憶がある。
いまやホコリをかぶって、ほとんど弾く人もいないまま放置されている。
一種のインテリアと化している。
これは弾かねばならんでしょ。
都合のよい理由をつけ、椅子にすわる。
弾きだすと、たしかに音がズレてがっくり来る鍵盤がある。
しかし、そんなことより、自分のミスタッチの方が多い。
ピアノのセイにしてはいけない。
ピアノ線も、赤くさびているモノもある。
切れている3本のピアノ線は、ペンチを借りて切り取った。
どのくらいの長さ、調律をしていなかったのだろうか?
それでも、わたしにとっては、立派なピアノである。
誰もいない空間で、思う存分、弾かせてもらおうではないか。