昨日の007のピアノの話をぶりかえす。音が狂っている鍵盤があると言った。
ちょうど真ん中あたりの黒鍵だ。
私がもっとも使う頻度が高い鍵盤と言っておこう。
ドビュッシーの『月の光』の出だしで最初に使わねばならない黒鍵だ。
よって、弾きだしたところで、腰が抜けそうになる。
微妙な音程の狂いは、気持ちが悪い。
でもまあ、長年放置してきたピアノなので仕方がないと思っていた。
そこで、その鍵盤をたたきながら、ピアノ線がどう叩かれているのか、
調べてみた。
フタの中に頭をつっこんだ。
フットも踏んだり離したり繰り返してみた。
すると・・・
その問題の鍵盤だけ、
ピアノ線に圧着されたままになっている事を発見したのだ。
何という名前の部分なのかは、知らないのだが、
くっついたままになっている。
そこで、手近にあった金属のへらで、剥がしてみた。
ベリベリ、ベリベリ・・
おお~剥がれた。
弾いてみた。
ポロ~ン
あらま、直ったじゃないか。
正しい(おそらく)音階になったじゃないか。
よし、これでストレスはなくなった。
素人工事人が、壊れたクーラーの調子を直したようなもんだ。
繊細なピアノに、このようなズブ素人の手が入って良いのか、
分からないのだが、手をくだした者としては、
鼻高々である。
ただし、斜めに立てかけた非常に重いフタの中に頭を突っ込むのには、
少々勇気がいる。
なにかの拍子に、ドダンと落ちてきたら、どうなる?
ちょくちょく目にする、ジャッキで揚げた車の下にもぐり込んで、
修理をしている人がいるが、あの心境に似ているかもしれない。
サスペンス劇場的に語ろう。
悪意のまみれた黒い衣服に身をまとった人物が、
邸宅のリビングに忍び込んだ。
そこには、ピアノのフタに頭を突っ込んでいる男がいた。
背後から、そっと忍び寄る。
男は一心に覗き込んでいるので、まったく気づいていない。
斜めにフタを支えている白い棒に目がとまる。
チャンスだ・・・
その人物はなぜか黒い手袋をしていた・・・
正月からこんな話をするのは気が引けたものの、
ピアノが直ったので、気は押されている。