《関サバ》大分県の佐賀の関(さがのせき)という町の沖で釣れるから、
関サバ。
いまやブランド魚の走りとして、全国に名を馳せている。
60年ほど前、佐賀の関のすぐ隣の町から船を出し、魚を釣った。
鯛やカワハギやブリが船腹を叩いた。
まだ魚影が濃い時代だったので、釣るというよりは、
海中からスクいあげるという感覚だった。
釣りというよりは、漁に近かった。
サバも当然のようにスクった。
その当時は、関サバという名前がまだなかった時代である。
スクったサバが、船の水槽のなかで、
ゆうゆうと青い縞模様を見せている姿に釘づけになった。
子供心に、このサバが、近い未来に自分の舌を刺激し、
やがて、腹に収まる予感にうちふるえた。
さして脳みその中に情報が溜まっていない子供の頃、
サバという青き情報が、脳みそに怒涛のように、流れこんだ。
サバに私が席巻されたひとときである。
このときには、私は気づいていない。
その後、
サバに、味覚の原点に大きな影響を受け、
サバに、人生の時間として、長い部分をささげ、
サバに、朝起きた時の目覚めに関わってもらい、
時には、「サバに我を失う」という、
恥ずかしいような食生活をするようになるキッカケが、
今思えば、関サバを海からスクい、
あられもなくガッツクと云う儀式に近い食事風景にあったのである。
関サバを食べ始め、長い時をへて、
ようやく、再び関サバに辿りついたのである。
辿りついた時には、佐賀の関のサバは、量が少なくなり、
極めて希少な魚になってしまった。
「おまえたちが、スクって食べてしまったからだ!」
そう言われても仕方ない。
だから、この舌を造ってくれた関サバに感謝し、お返しをしなければ!
普通のシメサバ