昨日、子供の頃の、日本酒の話をした。その続きをしよう。
20代の頃に、酒を呑む習慣はなかった。
出来れば酒類から離れて暮らしたかった。
理由は、マズイと感じたからにすぎない。
では、飲み物は何を飲んでいたのかと問われると、即答できる。
「水」
水を飲むのが好きだった。
当時はペットボトルの水など売っておらず、水道の水がすべてである。
蛇口から噴きだす水をコップに受け、ぐい飲みする。
朝から晩まで、飲料は水ですました。
公園にある、上に向かって吹きだす水も率先して飲んだ。
駅などにある足で押して吹きだす水も飲んだ。
食堂では、コップに注がれた水をおかわりした。
喫茶店では、注文した飲み物に興味がなく、水をガブガブ飲んだ。
そんな時、他に目がいく飲み物が出現した。
出現と言ったって、前からあったモノなのだが、
買えばいくらでも飲めるという夢のような飲み物だ。
《牛乳》
それまでは、一日一家で180ml、2本しか飲めなかった牛乳。
ところが、その頃1リットルの牛乳が売られ始めたのである。
しかも紙パック!
アメリカ映画で、たしかシドニーポアチエが、公園で1リットルパックを、
パコっとあけてグビグビ飲んでいたのを見た覚えがある。
そのマネをしたかった。
決して安くない1リットルのパックを買ってきた。
コップに移すのではなく、そのまま口をつけて飲む。
まず開け方がわからない。
ハサミで切るのか?
それとも穴をあけるのか?
よ~く見てみると、(現在と同じ仕組みだが)、
上部にスリットが入っている。
それを頼りに折り曲げると開くことを発見した。
発見という言葉を使うのも恥ずかしいのだが、
実際発見したときは、得意げにニンマリしたのを覚えている。
さて、口を付けるや、パックを傾け、ゴクゴクをやる。
これまで、どんどん喉に入っていく牛乳を感じたことがなかった。
とりあえず、どこまで入り続けられるか、傾けたままにした。
なんせ、非常に旨い飲み物である。
甘くほのかな香りにうっとりしている。
ここで、一気に飲むなどという愚行をしまいと心が動く。
いったん口から外す。
目の前にあるパックを揺すってみる。
おそらく半分は飲んだと思われる。
ガラスに映る自分の顔の鼻の下が白く濡れている。
「とんでもないことをした」
これまで一週間で飲んでいた量を、数秒で飲んでしまった。
たかが牛乳の一気飲みに、ビビル自分がいる。
さあ、牛乳に火がついた私は、その後、冷蔵庫の中に、
1リットルパックをいくつもはべらし、
時には、1リットルいっき飲みにまで発展する自分の変化に、驚く。
水から牛乳へと移行した味覚の変わり目だった日々。
アルバイト料が、牛乳にどんどんつぎ込まれる生活。
私の牛乳信仰は篤く、途中、低脂肪乳に移行したものの、
いまだ冷蔵庫には、1リットルパックが置かれるコーナーがある。