与論島(よろんじま)の最高地点は、海抜98m。島の南の端にそこはある。
そこは海から切り立った崖がそびえている。
あまりにもそびえているので、海側に道がない。
海から船か何かで直接アクセスするしかない場所。
ということで、島民も、近づけなかった。
よもや観光客は遠くから崖を見て、
「すんごいなあ~」とため息をつくしかなかった。
「あの崖を登れないかな?」
わたしの素直な質問に、島の若者が応じてくれた。
「逆に、てっぺんから降りて行けます」
なんでも、崖のてっぺんの端からロープやら何やら使って、
海面まで降りて、登り返してこられると言うのだ。
本人は、一度だけ行ったことがあるという。
「行こう!」
動きは早かった。
リュックを背負い、表面にゴムの付いた手袋をはめた。
いざ、てっぺんに立つ。
下を覗くと、はるか下で波が砕けている。
といっても、リーフ内のことであり、波は低い。
さあ、下ろう!
道は、あるようで無い。
崖といっても、ジャングルである。
アダンやソテツが群生している。
それらは、鋭いトゲが生えている。
近寄るモノを刺して刺しまくるどう猛な植物だ。
そのトゲトゲの隙間を探し、腰をかがめ、頭をくぐらせながら、
下ってゆく。
チクッ
足に痛みが走る。
よく見ると、下草にトゲだらけの草が生えている。
その横には、トゲの王様、野アザミが、
「俺もいる」とばかりトゲを伸ばしている。
南の島の崖とは、トゲだらけなのである。
100万本のトゲが動物を寄せ付けまいと生えまくっている。
そして、トゲは植物だけではなかった。
降りる為に掴んでいる岩こそが、問題だ。
岩はすべて珊瑚で出来ている。
遥か昔に海の中で成長した珊瑚が化石となって固まったモノ。
それが、雨風で風化し、
鋭い切っ先を持った針山を造りだしている。
沖縄などの島の海岸に、トゲトゲの岩を見た事があるでしょうか。
アレです。
ここで、ふとドラマのワンシーンを思い浮かべた。
小説や映画で、犯人が山の中を必死で逃げるシーンがある。
ハァハァゼイゼイ、全力で走って逃げる。
それを追う警察たち。
あのシーンはこの崖では成り立たない。
なんせ、トゲと針のような岩場である。
20センチ進むのに、ときには5分もかかる。
つまり現実の山の中の逃走劇とは、このような場所かもしれない。
犯人にはなりたくないし、警察官も気の毒だ。
さて、トゲトゲの岩を掴みながら、トゲまみれのジャングルを降りていく。
すると、これ以上降りられなくなる場所に行き当たった。
ハングしたような崖を降りるしかないのか?
ロープが無ければ降りられない。
っと、隅のほうに、うす暗い場所を見つけた。
岩に穴があいている。
人ひとりがやっと入れる位の裂け目があり、
どうやらこの洞窟を通るのが、ルートとしては正解と見定めた。
懐中電灯を持ってきていなかったので、スマホのライトを点ける。
リュックが引っかかるので、外してリュックを押し出しながら進む。
洞内は、複雑に道別れしており、
下に抜ける道を見つけるのに苦労する。
「おおい、ソッチ行けるか?」
『いや、ダメみたい』
「コッチも、穴が落盤で詰まってるゾ」
『あっ、あそこに明かりが見える』
さてこの続きは明日~