「おおい、ソッチ行けるか?」 『いや、ダメみたい』
「コッチも、穴が落盤で詰まってるゾ」
『あっ、あそこに明かりが見える』
会話は、与論島(よろんじま)の南の端の最高点98mから、
岩場を数10mほどクライムダウンした場所にうがたれた洞窟内だ。
スマホの灯りを頼りに、右往左往する。
普段、洞窟内とはツルツルと滑らかな岩が広がっているものだが、
ここではゴツゴツと尖り、針状の珊瑚岩がむき出しになっている。
着ているモノが引っかかる。
山登り用の伸びる材質の上下を着てきたので、
トゲに引っかかると、かかったまま伸びるので、先に進めない。
失敗だ。
その上、リュックも背負っている。
狭い洞窟には向いていない。
(まさか、崖下りに洞窟が出現するとは思ってもみなかった)
そもそもジャングルの中でリュックは向いていない。
常に背中がソテツやアダンのトゲに引っかかり、
いちいちリュックを外して運ばなければならない。
失敗だ。
洞内は鍾乳石が垂れていた。
1センチ伸びるのに、100年かかる鍾乳石の成長ぶりからすると、
数10万年以上前からこの地で成長してきた崖の穴である。
薄暗い20mほど穴の中をクライムダウンした辺りで、
ボコッと崖の中腹に出た。
さらに植物のトゲと穴のゴツゴツを繰り返し、
最下部の洞窟内で、海水が浸る場所に辿り着いた。
「おお~~ここはなんだ!」
思わず歓声を揚げた。
白い砂が洞窟内の海底にひろがり、海水の透明度はかぎりなく高い。
そこに、洞窟の外から陽の光がそそいでいる。
もし外の海側から眺めれば、海面近くに穴があき、
海水がその中に出入りしているのが見えるだろう。
我々は、干潮の時にやってきたから、光が満ちていた。
しかし、案内の彼(ヤス君)が以前やってきた時は満潮だったので、
もっと青い色に満ちていたと言う。
《青の洞窟》だ。
あまりの美しさに呆然としながら、再び90mの高みまで、
トゲの中を登り返すのだった。
そしてその夜、体中にトゲの傷がゴルゴ13の背中のように走り、
熱い風呂に入れなかった。
(注:この崖は、非常に危険なので、案内無しに降りるのは、やめましょう)
(注;正式の案内人は今の所いません)