「おお~ここにピアノがあった!」見つけたのは、川崎から木更津に渡る東京湾地下トンネルの、
中間点に位置する、《海ほたる》である。
サービスエリアの4階にソレはあった。
「どうぞご自由にお弾きください」
なんともまあ、驚くばかりの真っ赤っか。
見つけた時が、12月の最終だった。
つまり、クリスマス真っ盛り。
ポインセチアが、これでもかと飾りつけられ、
ピアノの色も、それに合わせたのか、これでもか色に塗られている。
最近の病みくすんだ世の中に、明るさをもたらしている。
弾く人が誰もいなかった。
お客さんも少なかった。
しずしずと、通路を進み、椅子に座った。
視界が赤々と染まっている。
しばし、沈思黙考・・・
やには、指を繰り出す。
ん・・・?
なあ~んか、いつものように音色が響かない。
《月の光》の最初の静かなメロディが聞こえてこない。
それでも弾き続けた。
ん???
耳を鍵盤に近づけ、ピアノの音に喰いつこうとする。
???
ピ~ッコ、キャンキャン、ガァ~~ドダン!
10mと離れていない場所に、ゲームセンターがある。
数々のマシンが大音響で、デジタル音を発している。
ワ~~~ン!
うなり音まで発している。
ピアノの近くにテーブルとイスがあるのだが、
誰も座っていない。
理由は、たぶんウルサイからと思える。
その目の前で、ピアノを弾いても、聞こえるハズがない。
実は、私も弾きながら、自分の演奏の音が聞こえない。
ピアノに耳を近づけて、やっとピンポロリンと聞こえる程度だ。
ヘタクソな私には、ゲーセンのメロディにかき回されて、
うまく音階が拾えない。
たぶん、かなり間違って弾いている。
しかし、もし聞いている人がいたとしても、気づかないほどの騒音。
う~~む、すこし残念・・
取り囲んでいる大勢のポインセチアたちが、
かなしげだった。