「滝が凍る」この言葉が信じられなかった。
どうどうと落ちてくる水が凍るとは想像外のことだった。
現象としては、「火が凍る」と言われたに等しい衝撃がある。
山へ行くと、凍った滝をしばしば見る。
大きく堂々とした膨らみを氷が造りあげている。
鍾乳洞でみるフローストーン(鍾乳石)そっくりである。
形成過程が同じなのだと気づく。
そう考えれば、滝が凍るとは、
大量のジャンジャン落ちてくる水が凍るのではなく、
鍾乳石がしたたり落ちる水で成長するように、
チョロチョロと、したたり落ちてくる水が徐々に凍るのだと理解する。
できあがった氷瀑が、
いかにもザーザーと流れ落ちる様を表現しているので、
ザーザーがそのままカチンと凍るのだと錯覚してしまうのだ。
つまり一昼夜で、でかい氷瀑ができるのではない。
長い日にちをかけて、成長してゆく。
時に、気温の低い山中で、人工的に氷瀑を造る人たちがいる。
その滝を登攀しようというのだ。
クライミングジムのアウトドアバージョンである。
マイナス10℃ほどの環境の中、
ホースで細いシャワー状にした水を吹きかけてゆく。
気温との関係で、水が多すぎると、固まらないし、
少なすぎると、上部だけが膨らみ、下部に氷が成長しない。
壁をつくるには、それなりの技術がいる。
そして、硬い氷を作らなければ、登攀道具を突き刺した時、
バリンッと割れたら、元も子もない。
氷瀑を登るには、アックスというカマキリの鎌のような、
鋭い金属の道具が2本いる。
両手でつかみ、切っ先をガツンッと氷に突き刺して登ってゆく。
やはりカマキリが登っている姿に似ている。
となると、この本を紹介するしかないだろう。
ダン・シモンズ著
「カナカレデスとK2に登る」
カマキリの形をした宇宙人カナカレデスとK2に登る話である。
これだけ聞いたのでは、意味が理解できないと思うが、
いや~面白かった。
現代の登山界の全体像がみえてくる。
著者のダン・シモンズも、
アックスの形からカマキリを連想したのだろうか?
読んで損はさせません、もってけドロボー!

川が凍っている