灯油はマズイ。何がマズイかと云えば、その臭いである。
アナタに訊きたい。
灯油をこぼしたことがあるだろうか?
灯油と云えば、ストーブをまず思い出す。
ストーブに給油する為に、ポリタンクを運び、ピコピコと音のする、
給油ポンプで、灯油を移す。
かなり気を付けても、多少こぼれる。
床だの、下に敷いてある鉄板の上にこぼれる。
こぼれても、なぜか拭かない。
そのままである。
不思議だ。元は石油。
石油といえば、ガソリンをイメージし、火を近づけただけで、
とんでもない事件が勃発する。
ところが、この灯油は、引火性が低いらしく、大騒ぎになりにくい。
現に、ストーブの横にこぼれている液体に、手袋を落として、
私が困っている。
何が困るかというと、その臭いが消えないのである。
ガソリンや、ベンジンなどは、揮発性が激しく、臭いが問題にならない。
そこへいくと、灯油の臭いは、未来永劫消えないのではないかと、
思えるほど、くさいままで残る。
たとえばアナタが、自家用車の車内に灯油を数滴こぼしたとしましょう。
これは、事件となる。
たった数滴なのに、その臭いは、消えない。
車を廃車しなければならないほど、消えない。
それなりの業者が、懸命に臭い消しを施しても、まだ臭い。
先日、山にある小屋で、灯油の暖房機の横で、暖を取っていた。
日中に雪で濡れた厚手の手袋を乾かしていた。
餅を裏表焼くように、ストーブにかざしていた。
っと、手袋を下に落としてしまった。
そこには、灯油の注入口があり、灯油がこぼれており、
いわゆる水たまりのような灯油たまりの中に、手袋がポトリと落ちた。
ほんの一瞬だったのだが、濡れた。
持ち上げて鼻に近づけると、例の嫌な臭いがする。
ただそれだけの事だったのに、その後、手袋はどうなったか?
捨てるしかなくなったのである。
もちろん、家に帰ってから、何度も洗剤で洗った。
洗い、乾かし、洗い、乾かし、繰り返した。
んで、捨てる決心をした。
さほど、臭いは消えなかった。
なにか方法はあるのだろうが、たまたまその手袋は完全に寿命がきており、
この山行を最後にオシャカにする予定だった。しかし、
他からチカラが加わってオシャカになるのと、
自らの寿命でオシャカにするのとでは、
長年お世話になった手袋への想いは違う。
灯油には責任はないが、手袋くんには申し訳ないことをした。
いっそ、灯油用の手袋として、第二の人生を過ごしてほしい。
山小屋 本棚